「しなびた」
2018.2.24
絵:美雨
言葉:雨音琴美
暗がりを好む者たちがいる。
彼女達だ。
汚いシーツを掻き集めて、ふたりは眠る。
アパートメントの真横には都心と繋がる私鉄の車両基地があり、深夜早朝も耳を遮る音を立てている。冷たい空気が薄い窓硝子の隙間から部屋へ侵入し、温もる頬から熱を奪っていた。
瞳は小さく息をする。四つが仄明かりの裸電球の下で囁きあった。
「前庭の緑を食べたのは誰?」
「きっと猫か子どもでしょう」
「違う」
「じゃあ誰?」
「お風呂の中で誰かが泣くと私わかるの。一昨日の夕方、お向かいに住んでいる学生の娘がそうしているのがわかったわ」
「その娘が食べたと言いたいの」
「彼に贈るはずだった花になりたいと、湯船に沈んでいたから」
「なんだかその気持ちわかる」
「誰に贈る花になりたかったというの」
彼女は問いかけに眉頭をあげてみせた。彼女はそれを見て指先を絡ませた。そして運命を手繰るようにお互いを見つめて抱き寄せ合った。彼女が静かに涙した。彼女はそれを舐めとった。
暗がりを好む者たちがいる。
光に照らされた道からはずれ、太陽から逃げ果せようと、そのうちに夜を渡り、露に濡れては踏まれ、しなびた。陰りの隙間で呼吸して、小さな命を解き合いながらそっと紡いでいる。
彼女達だ。
口づけは夜明けの知らせ。日の出から逃れてふたりはまた堕ちる。
渇いた未来の地球のような、絶望的な四畳半で甘く薫る身体と身体がそっと貼り付く。くすんだ月日の中で、お互いの存在だけが鏡面の如く煌めき、ひとつに微睡んでまた一日を閉じる。
あなたはわたしでわたしはあなた。
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