雨音琴美オフィシャルサイト

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金と雨空、壁際の木蓮

2017年〜20181年、画家の美雨と共に活動した
絵と言葉の共同制作「金と雨空、壁際の木蓮」のログ。

美雨作品サイト※tumblrが開きます。

「Soon/yet」
soonyet.jpg
2018.6.25
絵:美雨
言葉:雨音琴美

どうしてだろう
涙が出るのは
どうしてだろう

お前はこの世にひとりきりだと
突きつけられたときのあの気持ちを
咀嚼するんだ

どうせ人なんて

お前の思い通りにはならないのだと
明らかにされたときのあの気持ちを
反芻するんだ

どうせ人だろう

生きる意味について
そんなにもそんなにも
繰り返し問いますか?
天高く掲げた夢を
そんなにもそんなにも
うたいたいのですか?

どうせ人でしょう

どうしてだろう
涙が出るのは
どうしてだろう

くだらないことに砂を傾けてごらんよ
サラサラ流れてる平穏の中に
時は来てしまうよ

やがて すぐに

「切り札」
kirifuda.jpg
2018.5.21
絵:美雨
言葉:雨音琴美

別れられないでいるのなら
口づけをあげよう
終わるから
塞ぎ込めないでいるのなら
見つけてあげよう
泣けるから
まだ足りないとおもうなら
与えてあげよう
この身から

いつも立ち止まるあなたへ
わかっていてほしいこと

宇宙の総ては何処からでも
始まることができる

「花言葉」
hanakotoba.jpg
2018.4.16
絵:美雨
言葉:雨音琴美

春雨に
しっとり濡れて
花びらが
コンクリートの
地面で死んだ

女子大生がOBとホテル街に溶けてく季節
ソメイヨシノの花言葉は、純潔

夏が来て
儚くそっと
しおれるは
7月に咲いた
小さなときめき

一夏の恋は人知れず終わっていった
夕顔の花言葉は、夜と罪

秋口に
ふいに手紙が
届いたの
昔の友人
結婚の報告

あの頃の私が泣きながら扉を閉める
桔梗の花言葉は、永遠の愛

寒い冬
誰を思えど
息は白く
涙も氷柱に
なるばかりだわ

ひとりきりなのに笑ってみせる
白水仙の花言葉は、うぬぼれ

春夏秋冬の人生を
咲き乱れてゆく
私の花言葉は、

「しなびた」

shinabita.jpg
2018.2.24
絵:美雨
言葉:雨音琴美

 暗がりを好む者たちがいる。
 彼女達だ。
 汚いシーツを掻き集めて、ふたりは眠る。
 アパートメントの真横には都心と繋がる私鉄の車両基地があり、深夜早朝も耳を遮る音を立てている。冷たい空気が薄い窓硝子の隙間から部屋へ侵入し、温もる頬から熱を奪っていた。
 瞳は小さく息をする。四つが仄明かりの裸電球の下で囁きあった。
「前庭の緑を食べたのは誰?」
「きっと猫か子どもでしょう」
「違う」
「じゃあ誰?」
「お風呂の中で誰かが泣くと私わかるの。一昨日の夕方、お向かいに住んでいる学生の娘がそうしているのがわかったわ」
「その娘が食べたと言いたいの」
「彼に贈るはずだった花になりたいと、湯船に沈んでいたから」
「なんだかその気持ちわかる」
「誰に贈る花になりたかったというの」
 彼女は問いかけに眉頭をあげてみせた。彼女はそれを見て指先を絡ませた。そして運命を手繰るようにお互いを見つめて抱き寄せ合った。彼女が静かに涙した。彼女はそれを舐めとった。
 暗がりを好む者たちがいる。
 光に照らされた道からはずれ、太陽から逃げ果せようと、そのうちに夜を渡り、露に濡れては踏まれ、しなびた。陰りの隙間で呼吸して、小さな命を解き合いながらそっと紡いでいる。
 彼女達だ。
 口づけは夜明けの知らせ。日の出から逃れてふたりはまた堕ちる。
 渇いた未来の地球のような、絶望的な四畳半で甘く薫る身体と身体がそっと貼り付く。くすんだ月日の中で、お互いの存在だけが鏡面の如く煌めき、ひとつに微睡んでまた一日を閉じる。
 あなたはわたしでわたしはあなた。

「grace」

grace.JPG
2017.12.25
絵:美雨
言葉:雨音琴美

みつけて わたしを
夢の彼方にゆくひとよ
さがして わたしを
敵も味方も無い空に

おやすみなさい おやすみなさい
おやすみなさい わたしのとくべつ
もうあなたに会えないんだとおもうと
すこしだけ でもほんとうに かなしい

すすんで あなたは
夢の彼方へゆくひとよ
かなえて あなたは
遠く終わりの無い空に

おやすみなさい おやすみなさい
おやすみなさい あなたはとくべつ
いつかまた会えるんだとおもえば
すこしだけ でもほんとうに うれしい

おやすみなさい
わたしのとくべつ

「青写真」

aojashin.jpeg
2017.09.12
絵:美雨
言葉:雨音琴美

心の中で静かに、
幼き日々と忘れかけてた願い事を
思い描いてみた、
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、
関わった全ての人の顔なんか
思い出せもしなかったし、
全部が全部、笑顔じゃなかった。
それでも僕の世界にはいつも君がいて、
君はいつも夢を見て、夢を見て笑っていた。
すべて還そうよ。
待ってよ、どこへも行かないでいてよ。
巻き戻しのボタンを押し続けてもこの人生の
エンディングは今日だったんだね。
そして僕の中にいた君という僕が消えていく。
ほんとうはもっと近くにいてほしかったけど
言えないまま、
僕の中の僕は僕ごと消えるんだ、
鮮やかに、艶やかに、ほろ苦く。

「波打ち際のガブリエル」

Gabriel-mokuren.jpg
2017.08.08
絵:美雨
言葉:雨音琴美

まどろみの檻にいる
生まれて
出会っている
呼吸してる
命 尊く 瞬く
此処に 有るよ 或るよ
歌ってみる 木漏れ日のメロディを
暑い砂を踏みしめた足の火照りを
さざめく星の声を
散りゆく花の運命を
でも生まれて
出会っている
呼吸してる
今もこうやって ひとつ ひとつに
無邪気なあなたの明日を信じている


「我々は優しい君を儚む神」

wareware.jpg
2017.07.09
絵:美雨
言葉:雨音琴美

仄赤に火照った頬を
流れる一筋の小さな川に
名前など無いけれど呼んであげる
行為と感情はN極とS極
真ん中でいつも心だけ漂ってる

だって最初から決めていたんだもの
出逢うことも恐れることも
愛別離苦 相互理解
喚き散らしたってそれが運命だから
我々は選べない
いつか選べるようになんて
なるはずもない

硝子が美しいのは
いつも壊れてしまいそうだから
破片は誰かを傷つける
だからこそ大切にされるはずだった
ほんとうは守られて然るべき硝子は
どうしてかいつも何かを何かから守る
そしてそれもまたより一層
硝子を美しく魅せてしまう
触れてはいけない煌めき

君がくわえて生まれてきた銀の匙を
どう持つのかは
あなたに託されている
砂時計の砂をさらうのか
逆さに映った自身の姿を見るのか
狂おしいほどに強く何かを抉り出すのか
それとも匙そのものを捨てることだって

君の世界は
何に満ちていますか
鮮やかに命が咲き乱れていますか
君の瞳は
何を見つめていますか
その向こうに君自身はいますか

君の筆が事象の地平線を引いて
彗星は人間の交錯する瞬間
ひとつひとつに声をかけるよう廻り続ける
つまり物事には必ず意味がある
君が生きてゆくのは、
意味がある

探しなさい
求めなさい
踠きなさい
夢の中で踊りなさい
観客が目を背けて誰ひとり見てくれなくても
その足がやつれて傷だらけになっても
きっと続けなさい
全ては時が示すのだから

口笛を合図に扉を開けば
空は晴れて
雲を穿つ君の視線の刃に
天使は祝福する
信じなさい
君の優しさを
我々はそれを傍らで儚んでいるだけの、



実は今回初めてのことに挑戦しました。
これまでの作品は絵と言葉のどちらかが先行していましたが
今回はタイトルだけ決めた状態で同時進行で制作しました。
なので私達自身、お互いの作品を見た時にズレが生じると思っていたのですが、
不思議なシンクロニシティがあり驚きました。
そこに見えてきたのは、哲学的思考、孤独に歩む人の姿、人間や魂の本質といったものでした。
些細なことでも構いませんので、
もし共鳴してくださったら、
リプライやメッセージ、コメントなどで感想をお寄せください。
お待ちしております。


「Re:
12月20日AM1:54」

re.jpg
2017.06.17
絵:美雨
言葉:雨音琴美

寂しいからつけこまれてるんだろうけど、私だって寂しいから利用しているだけだし
ずるいやつにはかわりない、だけどなんだろう、だいすきなひとにごめんねって思いながら夜を数えるのはくるしいね
あんな綺麗な月見たことなかったんだ
あんな寒い人ごみの中で
どぶ川の匂いよりも近くに彼を感じたんだ

また夜の街で会いましょう


「しげる」

shigeru.jpg
2017.05.08
絵:美雨
言葉:雨音琴美

イメージの狂騒
極彩色がわたしを覆い尽くすから
この想いは やっぱり懺悔でもなんでもない
植え込みの片隅に芽生えた小さなそれは
100億光年先の地面まで伸びて
いつか星と星まで容易く繋がる


「生まれ」

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2017.3.31
絵:美雨
言葉:雨音琴美

遠くで警報みたいに
激しく鳴っている
段々近づいてくる
気配ごと私を包み込む
手探りの状況 滑らせた口先 掴んだ掌
全てがガラス工房の裏で
廃棄になった欠片みたく ばらばら ばらばら
けど光をあてると宝石みたいなの
不思議でしょう
そうやって少しづつ傍に忍び寄ってきた
新しさを抱いて 声をあげるのは命
ずっと鼓膜を叩いていたそれは鼓動
生まれたかったような気がする
拒んでいたような気もする
それでいて 祝福は私を離しはしなかった
だから ここに 今も こうして

涙雨のように だらだらと想い合った
少年と少女は影を重ねてあぜ道を歩いた
ふたつは いとも簡単にひとつになれたのに
どうしてひとつがふたつになるのに
こんなに踠いて苦しむんだろう
今度の旅は迷宮入りだと思った
それで、もう、良かった
そのくらい好きだった

レモンサイダーの泡がぜんぶ消えるまで
とにかく誰かと話していたかった
人生という名のミュージカルは
たいていが台無しだしろくでなしだったと
この歳になってやっとわかった
ファミレスの白米はいつも同じ味
フィギュアスケートの中継みたいな親密さで
5年の歳月に終止符-ピリオド-を打ちました

地獄にしては長くて綺麗な物語
金平糖みたいな思い出たち
たまに固くて後味が痛いけれど
歯切れがいいから舐め続ける
惨めで歯がゆいのはいつも
スカートの裾を下ろす時
そこで私を嗤っている 陽炎のようなマリア像
祈ってきた いつも縋ってきた
そして挫折感の中で また何かが閃いた
あなたの名前を 呼びながら
結局のところ 繰り返す
生まれる は エスケイプ