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2016 .07.23「音倉デ聴き歌ヲ9〜響け、真夏の宵に〜」ライブレポート written by 雨音琴美

2016.07.23
「音倉デ聴き歌ヲ9〜響け、真夏の宵に〜」
ライブレポート

<written by 雨音琴美>
<photo by せきねふみえ>

音倉デ聴き歌を9 響け、真夏の宵に!

梅雨空の憂い雲を吹き飛ばすように、さあ、モンスターも人々も集まった!
2年ぶりの聴き歌ライブに待ちわびた聴衆で、会場は早くも火照っている。
久々の再会を喜ぶ声が飛び交う中、いよいよ9度目の夜が始まった。

1st Stage ♮ナチュラル

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photo by せきねふみえ>

セットリスト
1 怪獣のバラード
2 夢の世界を
3 ホールニューワールド
4 生まれて初めて
5 ゴーザディスタンス
6 ジッパディドゥーダー
7 スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
8 涙はきっと
9 気球にのってどこまでも

トップバッターは音倉初ステージ、フレッシュな4人組、♮ナチュラル。
ソーダ水のような揃いの衣装で登場だ。自然に拍手から手拍子が始まったのを見て、弾ける笑顔も眩しい。
1曲目は『怪獣のバラード』。
かのんとあいの可愛らしいボーカルを、かけるとかずまがしっかりと怪獣のようなコーラスで支えてゆく。
足並みの揃ったステップにメンバーの仲の良さを感じる。威勢の良いシンバルが、1曲目から会場の熱を上げた。
メンバー紹介ではそれぞれが名前と年齢、そして普段役者として活躍中の彼らの代表作を述べた。
「今日はいつものかのんで頑張ります」と笑うかのん。同じく中学1年生のあいは少し緊張気味にはにかんだ。
かけるは18歳、「今日も元気に頑張りたいと思います!」と満点の笑顔。
そんな3人を取りまとめるようにしっかりとした表情でトークをリードしていくかずまは20歳の大学生だ。
4人でのステージでは初めてと言うことだったが、それを感じさせない完璧なチームプレーにプロの仕事を感じる。かずまが「かけるさん、例のものをみんなに…」と言うと、麦わら帽子が配られた。伴奏の浅見もちゃっかり麦わら帽子をかぶり、『夢の世界を』を披露。
ぴったり揃ったユニゾンで始まり、男性がメロディを、女声がハモを歌うという珍しい編成。
ただの役者ではなく唄い人としての彼らが2曲目にしてしっかりと伝わった。
次のMCではかのんの音倉食堂のタコライスの話題に始まり、かずまも「食べ物の話ばっかりだね!」と突っ込みを入れる盛り上がり。子役を経験して良かったこと、大変だったことをそれぞれが語った。
かけるは「演技している時が一番楽しい」と自分の本質をサラリと述べた。あいはバイオリンを弾く役を経験し、とても大変だったと語ったが、今の彼女にはバイオリンの音には負けない声がある。
続いてかけるから「1日オフがあったら行ってみたい場所と言えば…」と話があり、ディズニーメドレーに突入。『ホールニューワールド』ではピュアな4人の恋物語が繰り広げられた。まるでステージという魔法の絨毯に身をまかせ、2組のカップルが夜空へ飛んでいくような伸びやかなハーモニー。
続いて女子2人の『生まれてはじめて』。アナとエルサも顔負けの2人のプリンセスが物語の世界へエスコートしていく。そこへかずまが台詞と共に入ってきて『ゴーザディスタンス』を披露。勇敢な20歳のプリンスの、等身大の歌声だ。彼の演技力で歌のステージも一瞬にしてミュージカルに。ハンドマイクにも熱がこもる。と、そんなかずまにおどけて割り込んできたのがかけるの『ジッパディードゥーダー』。周りも笑顔にしてしまうとびきりの無邪気なスマイルに会場も自然と手拍子を始める。最後は全員で『スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス』。息ぴったりの完璧な振り付けと曲のスピード感に会場も思わず走り出した。拍手で満たされた会場。
「どうですか?行った気分になれましたか?」というかずまの問いに、やはり大きな拍手で答えた。
8曲目は『涙はきっと・・・』。浅見のピアノの音色と、4人の透き通る声が無色透明の涙へ変わる。彼らの瞳にはスポットライトではなく希望の光が宿っている。「僕らの思い出から旅をしてきましたが…」というかずまのトークに、30分の旅も終着駅が近いことを知る。
それぞれの近い未来の告知をして、ラストの曲は『気球にのってどこまでも』。かずまの「更に前に、更に高く」という言葉通り、新しい旅の知らせを告げるコードが鳴り響いた。4人はどこまでも旅が出来る。まだ飛び始めたばかりのその気球はいったい何処へ行くのだろうか。摘みたてのハーブのような残り香をステージにおいて、満開の拍手に囲まれてナチュラルはステージを去って行った。

2nd Stage かなりやとうばん

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photo by せきねふみえ>

セットリスト
10 証城寺の狸囃子
11 夏は来ぬ
12 あの町この町
13 茶摘み
14 兎のダンス
15 赤い靴
16 上を向いて歩こう
17 かごめかごめ
18 埴生の宿
19 咲きます
20 折り鶴
21 どうした太陽
22 お猿のかごや
23 オー・シャンゼリゼ

2番手に登場したのはかなりやとうばん。ワールドミュージック的童謡叙情歌を次々と送り出す特異なユニットだ。
1曲目『証誠寺の狸囃子』から、タンバリンを壊れそうな勢いで身体中で鳴らし、自分も楽器になったかのように音とひとつになる榊原。浅見も負けんと爪が割れそうなほど6本の弦をかき鳴らす。今日は“新しいのに古い曲”を中心に披露するということ。昔ながらのナンバーがどんなかたちで伝えられるのか楽しみだ。
2曲目『夏は来ぬ』。レモン色のシェイカーが夏の訪れと手拍子を会場に連れてくる。夜を渡るオカリナの調べ。これから迎える夏本番がより一層楽しみになるナンバーだ。
続いて『あの町この町』を披露。スキャットとピアニカの古めかしさと、黒いリボンで結い上げた榊原の都会的なポニーテールのシルエットが、不思議な時代錯誤を起こしセンチメンタルなテンションにさせられる。
浅見に呼ばれてこの後マチルダマーチとして登場予定のリズムとうばんハセタクが入り、お客さんにも「ちゃちゃ」でお馴染みの『茶摘』。見守る聴衆ひとりひとりに美味しいお茶を届けるような笑顔で歌う2人。茶葉を混ぜるような乾いたハイハットの音に、緑の匂いまでしてくるようだ。「煎茶!」「新茶!」という現代チックなコール&レスポンスも、美味しいだけじゃない面白味を出している。
『兎のダンス』はタイトルの他、わらべうたの『うさぎ』のフレーズも入り、2つの名曲が代わる代わる跳ねる新しいアレンジだ。雲隠れした今夜の月を思い浮かべる。うっとりとしたハモりが憎い。
赤リップにハマっているという榊原が「赤い唇でお届けします」と呟き始まった『赤い靴』。慟哭のようなパンデイロが少女の哀愁を呼び起こす。こうしたクールな大人の曲を歌いあげられるのもかなりやとうばんの一面だ。この一瞬彼らは“オトナとうばん”なのだろう。
「お次は恒例のみんなで歌おうコーナー!」と浅見が盛り上げ、七夕の日に亡くなった永六輔氏に捧げる1曲『上を向いて歩こう』を全員で歌った。歌謡曲の域を超えた名曲を歌い継ぐ。まさに唱歌としての姿を実践した時間であった。
「新曲なのに江戸時代の歌」とまたまた時代錯誤なトークに始まった『かごめかごめ』。ライトも落ちて、不穏なアルペジオが降りてきた。夏にぴったりなヒンヤリナンバーだ。榊原のコーラスには悲哀めいた呪いすら感じるよう。後追いする浅見の声も忍び寄るようで、後ろを振り返るのが恐ろしくなる。
しかしホラーな1曲の後にはきちんと帰るべき温かい家が用意されていた。9曲目は『埴生の宿』。胸に手をあて、心を込めて歌う榊原。音楽こそが彼女にとっては埴生の宿なのかもしれない。そこにそっと住みつくように肩を寄せ、ギターを添える浅見もまた温かい。
10曲目は浅見の組んでいるMr.ユニットのカヴァーで『咲きます』に挑戦。木の目のシェイカーを上下に振って、新しい試みに自分を奮い立たせる榊原。“今の私の精一杯で”というフレーズはまさに今の2人の姿そのものだ。
ここでかなりやとうばんファンには馴染みの名曲『折り鶴』を披露。ところが今日は少し違った。ピアノで大空を描くようなアレンジとは打って変わり、ギターとピアニカで折られた鶴。羽ばたきと共に刻む弦の音。しかし大空を凛と渡ってゆく澄んだ強い声は変わらない。たくさんの希望を託して、遠い地の人々の心にも届けられることを願う。
続く12曲目もオリジナル曲『どうした太陽』。心の中の太陽を燃やしてくれるファイトソング。緩急の付け方がうまい歌い回しで、ごうごうと観客の空気も燃えさかっていく。
『お猿のかごや』は“エッサ ホイサッサ”という歌詞に不釣り合いなほどにハードボイルドなキメまでが光るアレンジ。本当に新しいことにトライし続けている末恐ろしい2人組だ。気づけばタンバリンを叩きすぎた榊原の手はサルの顔のように真っ赤になっていた。観客も“エッサ ホイサッサ”のコール&レスポンスに熱く応える。
名残惜しいラストソングは『オー・シャンゼリゼ』。こうした海外のスタンダードも2人の手にかかればかなりや色に染まる。2人と一緒に洒落こんで、今日は音倉で赤ワインでも口にしたい気分だ。蒸気する会場に笑顔を浮かべ、かなりやとうばんのステージは幕を閉じた。

3rd Stage マチルダマーチ

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photo by せきねふみえ>

セットリスト
24 はじまりのCiranda
25 ハレルヤ
26 日々は電車に乗って
27 ジガジサンバ
28 ビリンバウ
29 たゆたう
30 小春待ち
31 ハミングガール
32 光の中へ

33 アサンテの朝(アンコール)

満を持して登場したのは異国の風と日本の風をミックスしてお届けするマチルダマーチ。名古屋からご機嫌ミュージックを連れて久々の聴き歌ライブのステージに立った。
『はじまりのCiranda』の“さあ 始めよう”という歌詞が、カーニバルのスタートを告げた。YUKI=レッド、ハセタク=ブルー、ウエキ=オレンジという衣装の鮮明な印象が目に焼き付く。
2曲目『ハレルヤ』。晴れやかな声と期待に膨らむパーカッションの裏ではウエキのギターが悩みあぐねる心のように繊細に揺れている。それでも、雨雲を打ち消す強いYUKIの歌に今夜は星が見れる気がしてきた。
ハセタクのドラムに合わせてステージの端へステップを踏むYUKI。ささやかな日常をミドルテンポで切り取った『日々は電車に乗って』。レールの音のようにカホンがリズムを刻む。あらゆる鳴り物を駆使したパーカッションでお腹が満たされるのはマチルダマーチの“マーチ”の魅力のひとつだ。
4曲目でスタンドマイクに切り替えたYUKIは“代表作かも”と自ら告げ『ジガジサンバ』を披露。もうすぐ始まるリオ五輪を想うサンバ調のナンバー。リズムに腰を振って楽しげに歌うYUKIには色っぽさも感じる。決してブレないその強い声でぐいぐい異国の音色に会場を引き込んでゆく。腕を大きく広げる彼女は音楽とライブを心の底から愛し、楽しんでいる。
「精一杯のおちゃらけを搭載した」というサンバから一転、アンニュイなギターが鳴る5曲目は『ビリンバウ』。遠い邦の海のさざめきを感じるような調べで、麦わら帽子もYUKIの顔に影を落とす。
パンデイロソロでは全員の視線を浴びたハセタクがここぞとばかりに輝く。その姿にはメンバーであるYUKIも思わず歓声をあげた。ウエキもすっかり見とれていたが、ギターソロではそれに負けじと前に出て、慕情を音に落とし込む。そんな2人の姿にYUKIの真っ白なスニーカーも思わず足踏みしている。最高潮となった会場の熱を熱く冷ますYUKIの声は限界を知らないようにソウルフルに広がってゆく。
「南の島の風景を歌にしました」という『たゆたう』。タイトル通り、やわらかな光と音の波が至高のリラクゼーションナンバーを紡ぐ。夏のバカンスにぴったりなメロディで会場は浜辺に早変わり。景色が浮かんでくるように、写真ほどにリアルなYUKIの歌詞はいつも私たちに旅をさせてくれる。
続いて「そばにいるだけであったかくなって、慰めてくれてるわけでもないのに、慰められてるようなキモチになるあったかい人」を想って書いたという『小春待ち』。YUKIがずっと目を閉じて歌っていたのはやさしい涙が出ないようにとそのためなのか…。“それでいい”という歌詞のリフレインが心にしみてゆく。
お次はまさにマチルダマーチのご機嫌ミュージックがぎゅっと詰まった『ハミングガール』。ピュアでまっすぐでハンサムな女の子像をありありと描き出したフレーズはYUKIの理想か、あるいは等身大か。自由に奏でるスキャットは世界散歩を楽しむオトナ女子の鼻歌だ。
ここへ来て観客も待ちわびたハセタク&ウエキのトークでCDリリース等の嬉しいニュース。全国発売・配信ということで、さらに彼らの音楽が世界へ広がることだろう。
ラストソングは『光の中へ』。「何度でも何度でも立ち上がれるように。そんな想いで書きました」とYUKI。明けない夜はなくて、この夜もやがて朝を迎える。ライブは終わりに近づいている。それでも次への期待を込めて、手拍子とパンデイロが重なり、ギターは刻み、みんなが笑う。心地よい光に包まれて最後の1曲が閉じていった。


光の中へ吸い込まれていった観客は拍手をやめず、ついに迎えたアンコールは『アサンテの朝』。マチルダマーチから感謝を込めた1曲の贈り物。あらゆる傷を癒やす生命へのBlessで歌いきった。
幅広い年代がひとつの倉で、それぞれの想いを宿して、『音倉デ聴き歌を9~響け、真夏の宵に!~』という時間が温かく過ぎていった。

written by 雨音琴美
photo by せきねふみえ

2014 .07.05「音倉デ聴き歌ヲ8〜星めぐりの宵に〜」ライブレポート written by 雨音琴美

2014.07.05
「音倉デ聴き歌ヲ8〜星めぐりの宵に〜」
ライブレポート

<written by 雨音琴美>
<photo by 田口雅尚 小林良広>


梅雨もそろそろ明けるかという頃か。
7月5日の下北沢、「音倉デ聴き歌ヲ」もついに8回目。
七夕も近いということで、サブタイトルを「~星めぐりの宵に~」と題し開催された。
空は満天、会場は満員。18時45分、暗転したが、まだ外から仄明りが差し込んでくる。スポットライトの中に主宰の浅見が姿を見せ、いよいよライブの始まりだ。

Welcome Song 浅見昂生

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<photo by 田口雅尚>

セットリスト
1 雨のプラザ

「それでは浅見のwelcome songを1曲だけお送りしたいと思います」
挨拶を終えると浅見はピアノに座る前にサングラスをかけ「どうも」と決めポーズをしてくれた。
「梅雨の時期でもありますからなかなか七夕と言っても星なんかが見えないこともこの東京で多いような気がします。1曲、雨の歌をお送りしたいと思います。作りたての曲、雨のプラザという曲を歌います」
ブルーの衣装は雨の色、憂いのあるピアノから、ラブソングが降りだした。天の川の上の恋にも、こんな切ないアナザーストーリーがあったかもしれない。女性目線の楽曲が得意なのも、浅見の魅力のひとつだ。しっとりとした世界観に会場を引きずり込んでくれた。
曲が終わると浅見はピアノから立ち上がり、ギターを手にとりファーストステージの紹介を始める。

1st Stage 相本久美子 & Hearts

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<photo by 小林良広>

セットリスト
2 ひとりごと
3 銀河のロマンス
4 Dearest for you
5 星影のスローダンス
6 そばにいてください

「最初に紹介する出演者の方はなんと今年の秋でデビュー40周年、大先輩ですね。昨年から少しずつセッションをしてきて、今日初めて2人でステージをやります。もう一度初めから、フレッシュな気持ちでファーストステージを飾ろうということでここでお呼びすることになりました。盛大な拍手でお迎えください、相本久美子さん!」
期待通りの盛大な拍手に包まれて、水色の爽やかな衣装に身を包んだ相本久美子がステージに姿を現した。「これから相本久美子&Heartsというユニットで何かやっていけたらといいなと思って」
と笑顔の相本。軽やかなトークに会場も拍手を送る。
「それでは挨拶代わりに1曲、この曲は私が10代の頃に歌っていた歌なんですけれども、初恋をテーマにした曲で、皆さんにも必ず初恋ってあると思うので、そのときの気分に戻って聞いていただけたらと思います」
最初に披露するのは『ひとりごと』。フレッシュで甘酸っぱい香りを放つベリーのような歌。けれども相本と浅見の声が重なれば、どこか大人っぽく熟れた甘さも感じる。
続いて、2人が最初に買ったレコードの話題から、ザ・タイガーズのカヴァーで『銀河のロマンス』を披露。相本がリズムをとるたび、アクセサリーがライトに照らされて銀河のようにキラキラと揺れ、目を奪われてしまう。今後も懐かしい曲をカヴァーしていきたいということで、歌ってほしい曲があればきちんと練習してリクエストに応えてくれるとのこと。活動が楽しみなユニットだ。
「この曲は私が仕事をしてきた中で、応援してくれた人や周りで支えてくれた人に感謝を込めて歌いたいと思います。」
3曲目は初披露の曲、『Dearest for you』。大切な誰かを思い出すような、やさしいメッセージソングだ。やさしいだけではない強さが、彼女の声には宿っている。その姿に感極まったファンも少なくないだろう。
続いてオリジナル曲『星影のスローダンス』を披露。わたせせいぞうのイラストに出てきそうなお洒落で大人っぽいシチュエーションが彼女に似合いのナンバーだ。
「最後の歌なんですけれども、これは私が若かりし頃、コンサートとかステージで最後に歌っていた曲で、作詞を初めて自分でした歌です」
ラストは彼女らしい恋の歌、『そばにいてください』。ポロンとひとつギターを鳴らせばアイドルソングは大人アコースティックに大変身。
いっぱいの拍手に包まれて終わった相本久美子&Heartsの初ステージ。彼らにとって、非常にいいスタートが切れたのではないだろうか。

2nd Stage 林りゅうへい

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<photo by 田口雅尚>

セットリスト
7 1曲目
8 トイレの中で
9 胸さわぎ
10 うたうたいの旅(with 神山幸也)
11 トンネル(with 神山幸也)
12 道しるべ(with 神山幸也)
13 ロックバンド
14 それぞれの物語

Per: モリシタジュン Ba:ひらきてるゆき

「こんばんは!林りゅうへいと言います。」
セカンドステージはシンガーソングライター林りゅうへい。「暑いけど気持ち悪くなっていませんか?気持ち悪いの始まりますけど!」と乗っけから観客の笑いを誘うテンポのよいトーク。最初の曲は『1曲目』。前回の聴き歌ライブでも披露されたが、今回は“おろしたての7月”、“ギンガムチェックのシャツ”...歌うたびに歌詞が変化し違う色を差す面白い楽曲だ。
2曲目はいきなり林流が炸裂する『トイレの中で』。これだけ心の中の声を高らかに表現してくれれば普段同じことを思っている人もさぞかし報われたことだろう。デトックスソングといったところだろうか。
「愉快なだけが取り柄の仲間達です」と林に呼ばれて登場したのはベースのひらきてるゆきとパーカッションのモリシタジュン。彼らのエレキベースとカホンでちょっとロックに彩られた『胸騒ぎ』というナンバー。先ほどまでのユニークさからは一転、林の歌もカッコよさを増す。
ここで林がスペシャルゲストを呼び込む。かなりやとうばんから神山幸也の登場だ。
「かなりや幸也がきてくれました(笑)…こうやんとは幼稚園からの幼なじみなんです」「えっあれそうだっけ?」「嘘だから!え、ほんとに?ってならないで(笑)いい色だね!(カーディガンを指して)」「いい色でしょ?からし色だぜ」2人の息ぴったりのかけあいに会場からも思わず笑い声。
「2人で初めてハモった曲をやりたいと思います。僕はジョン・デンバーが好きで、彼のことを想いながら、書いた曲です」神山を迎え入れての4曲目は『うたうたいの旅』。トークだけではなく声の相性も2人はぴったりのようだ。神山の誘いで会場も手拍子で参加。林の歌とアコギとハーモニカ、神山のマラカスとコーラス、ひらきのエレキベースにモリシタのカホン、色んな音が会場に溢れ始めた。続く5曲目は林のライブではお馴染みのナンバーとなりつつある『トンネル』。神山はマラカスをグロッケンに持ちかえ、キラキラと星を叩くような音を鳴らし始める。ギターもいっそうメロディを光らせ、透き通った林の声も美しい。そこにベースと、スネアとブラシのこすれる音が加わり、曲に心地よい深みを授けていく。
短冊についてのMCを挟んで、次の曲は『道しるべ』。今度は神山がタンバリンを手に音を鳴らす。林の「あれだよ!あれあれ!それ!」という声で観客が察したように手拍子をはじめ、少しずつ音が膨らんでいく。その様子はまさに音楽隊。林の声が道しるべとなって、隊列を盛り上がりへと連れて行くようだ。
音楽隊の面々が去ったあと、林はひとりでギターのカポを変えながらそっとつぶやき始める。
「ギターうまいでしょ?サッカー見ながら練習してるんです」
そんなMCの延長のように、つぶやくような短い歌、『ロックバンド』を披露。ところが不意にギターを間違えてしまい「へたくそだな?!」と自分で突っ込みを入れる林。「ありがとう。1回間違えたらちょっと手震えちゃってへたくそでしたね…もうちょっとサッカー見ときます」とこれまた自分でフォローを入れた。
「こう日々生きていると、僕なんかでも色々辛かったり悩んだりすることがありまして、僕なんかでもあるんだから普通に生きている人はさぞかし生きるのが嫌だったりする人もいるんだろうなと思ったりして…みんな頑張っているんだなあという気持ちをこめて書いた曲です。うん。なんか…いいなと思ってもらえたら嬉しいです」
ラストナンバーは『それぞれの物語』。明るい林の歌声が、セカンドステージのハッピーエンドを飾る。止まぬ拍手に見送られ、その物語は次のステージに続いていくようだった。

Main Stage かなりやとうばん

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<photo by 小林良広>

セットリスト
15 ごあいさつ
16 たなばたさま
17 浜辺の歌
18 めだかの学校
19 カントリーロード
20 青空を探して歩いていこう(朗読 せきねふみえ)
21 流れ星になりたいな(朗読 せきねふみえ)
22 星めぐりのうた
23 折り鶴
24 涙はきっと
25 青空を探して歩いていこう

ステージに現れた榊原有菜、神山幸也、そして浅見昂生の3人が「こんばんは かなりやとうばんです」と『ごあいさつ』。いよいよ本日のメインステージ、かなりやとうばんの登場だ。夜も更けてきたところで、『たなばたさま』を披露。季節感のある選曲も、彼らの特徴だ。やさしいギターの音色に3人の美しいハーモニーが乗っかる。結成から半年で迎えたメインステージという舞台に、いささか緊張気味の3人を観客はいっぱいの拍手で励ます。榊原もそれに応えるように「皆さんがご存知の曲もありますので、よかったら一緒に口ずさんでくださいね」と笑顔を見せる。続いては『浜辺の歌』なんとも夏らしいナンバーだ。ギターの音が湿気っぽい夏の空気を伝わって深く鳴る。暮れた海がそっと凪いでいくような優しい声色が合わさる。会場は一気にノスタルジックな雰囲気に。おしまいには、ただのハミングがこんなに心地よく響くことがあるんだと、とても贅沢な気持ちにしてくれた。
「世代を越えていくような曲を、たまたま僕ら世代が違うので、越えて、やろうということで。まあ…どう考えても最初に僕が死ぬよな…まだまだ一緒にやってくれるよな?」と浅見。「まだ半年ですから」と神山。ブログで榊原が更新中の名曲紀行など、今後の活動が楽しみな3人だ。早速、その名曲紀行で紹介されている『めだかの学校』を披露。こんなめだかの学校を未だかつて聞いたことがあっただろうか?イントロから浅見のギターがハーモニクスを鳴らし、リットのタイミングもぴったり合わせて浅見と神山が歌いだす。榊原がそこに手話を交えて入ってくる。泳ぎ回るめだかの姿が浮かぶようなやさしく、可愛らしい歌だった。
「甘いものが大好き、かなりやとうばんのリーダー榊原有菜です」「辛いものを食べるとおなかを壊す神山幸也です」「アンチエイジングなものが好きな浅見昂生です」メンバー紹介のあとは『故郷』。日本の唱歌としてなじみ深いスタンダードナンバーだが、彼らにとってもスタンダードとなりつつあるようだ。半年、あるいはそれより以前からの練習で、しっかりとその世界観を確立してきた。誰でも歌えるナンバーだからこそ、オリジナル感を与えるのは難しいのではないだろうか。かなりやとうばんはそれを難なく表現できている数少ないアーティストかもしれない。
明るいギターのストローク、榊原のマラカスと神山のタンバリン、それから会場からの手拍子が合わさって続いてはジブリとジョン・デンバーがミックスの『カントリーロード』。穏やかだった空気が一気にバージニアの暑く湿った空気に様変わりする。3人もここぞとばかりに気持ちよさそうに歌い上げる。ブリッジでは神山のソロが見せ場を作り、ラストまで一気に駆け上がる。この心地よさはさながらロックコンサートのよう!こんなアコースティックがあったのかとただただ驚愕。
かなりやとうばんは歌だけのユニットではない。ここで神山に代わり、作詞とうばんのせきねふみえが登場。「詞の朗読と、榊原さんの手話と、僕のギターで何かできないかと言うことで、練習してきました」と浅見。この3人でお送りするのは『青空を探して歩いていこう』。ショーとしての域に留まらず、対訳が手に取るようにわかることで、本当に見ている方にとっても有益な時間が生まれる。

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<photo by 小林良広>

浅見のチューニング中には可愛らしい女子トークが展開。せきねの今日の衣装は黒のシックなワンピース。七夕ということで夜空をイメージしたものとのこと。一方榊原の黄色いカーディガンはかなりやのイメージだろうか。続いて同じ3人で『流れ星になりたいな』を披露。朗読が終わるとせきねと入れ替わり、神山がハミングでそっと戻ってきた。上を見やるその目は、本当に流れ星になりたいと考えているのだろうか。しかしすぐに目線は浅見、榊原、そして観客の方へ…。今日の音倉に集まった人々の数だけの願いをかき集めて、彼らの歌は遠く夜空へ羽ばたくようだった。一声、二声、三声と膨らみ続けていく。
7曲目は本日のサブタイトルにもなっている、宮沢賢治の詞による『星めぐりの歌』。榊原のピアニカがまるでトランペットの音色のように澄み渡り、流れ星に乗った彼らは夜空の旅へ。宇宙の果てを感じるスキャットがたまらない。
今夜の会場でもたくさんの鶴が折られ集まった。「平和は永遠のテーマだと思う」と榊原。オリエンタルなピアノに誘われて始まったナンバーはオリジナル曲『折り鶴』。あるがままの声が美しい歌を成す。レトロモダンとも言うべき秀逸なメロディセンス。平和への願いと底知れぬエネルギーを感じる不思議なパワーを持った楽曲だ。会場も思わず目を見張り、また涙をぬぐう仕草をする人もあった。熱い涙は地に落ちて、続くナンバーは『涙はきっと・・・』。次世代のスタンダードナンバーになるべきオリジナルソングだ。歌いきったときにとても満足げな表情を見せたメンバー達。手ごたえがあったのだろう。そして純粋に、このステージが楽しいのだろう。惜しまれながらのラストソングは『青空を探して歩いていこう』。3人のかけあいが爽快なミドルナンバー。神山の陽気な口笛も入り、会場も楽しそうにクラップを送る。大盛り上がりのメインステージ。かなりやとうばんはつとめを果たすと笑顔でステージを去っていった。

Encore

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<photo by 田口雅尚>

セットリスト
26 リトルスター はだあれ?
27 笑顔に会いたい〜Special Session〜 pf; YUKI (from Arearea)

手拍子に迎えられたかなりやとうばんのアンコール。お送りするのは『リトルスターはだあれ?』。『きらきらぼし』でおなじみのメロディに合わせぴかぴかと星が明滅するようなアカペラを披露。最後の最後で自分達の声色の良さをここぞとばかりにアピールしてくれた。
「それじゃあ、今日の出演者をもう一度呼びたいと思います!」という浅見の声で、今日の出演者が一挙に集まった。そして、前回の聴き歌ライブの直後からダブル産休に入ったAreareaから、飛び入りゲストとしてYUKIが登場!RINOが無事出産したという嬉しいニュースもあり、会場の熱はピークに達する。本日の出演者から一言ずつということで「楽しかったです!どうもありがとうございました!」と榊原。浅見に不思議な青年と呼ばれた神山からは素敵なイベントへのお誘いが。そして朗読のせきねが「楽しんでもらえましたかね?」と聞くと観客が拍手で応えた。林からは「お帰りの際は出る前に僕の短冊を見てください。で、指示に従ってください(笑)」とのこと。パンフレットを見た人にはおわかりいただけたことだろう。初参加の相本からは「今回はアコースティックな、ピアノとギターだけで歌うという非常に緊張したタイプだったんですけれども、まあうまくいったかな?と思っていますので、またよかったら来てください」と満足そうなコメント。最後のナンバーはAreareaのライブではおなじみの『笑顔に会いたい』。かなりやとうばんから林りゅうへいにバトンが渡り、全員で大合唱のサビ。相本久美子&Heartsの楽しげなデュエットから今度は会場も一緒になっての大合唱。その声はきっと空の上で待つ夏の恋人達まで届いたことだろう。どこまでもどこまでも、高く高く、遠く遠く…。

<written by 雨音琴美>
<photo by 田口雅尚 小林良広>

2014 .03.29「音倉デ聴き歌ヲ7〜サクラ咲く頃に〜」ライブレポート written by 雨音琴美

2014.03.29
「音倉デ聴き歌ヲ7〜サクラ咲く頃に〜」
ライブレポート

<written by 雨音琴美>
<photo by 雨音琴美 Yoshikuni Syouji 田口雅尚>


ひかりのどけき春の日に、下北沢音倉は今回も超満員。
桜が開花し、温かい天候となった3月最後の土曜日、初のnobara recordsオールスターズでの聴き歌ライブが実現した。
このライブのパンフレットには演奏楽曲の歌詞がいくつか載っていた。
また、折り紙が1枚入っており、折り鶴を募る企画も用意されている。
テーブルごとに置かれた折り方の表を見ながら、親子や友人同士で教えあい、折り鶴を折ったり、歌詞カードに目をやったり、音倉の美味しいおかずに舌鼓を打ったりしながら、来場者はそれぞれに、開演を待っていた。

Welcome Song 浅見昂生

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<photo by 雨音琴美>

セットリスト
1 Dreaming Butterfly

開演時間ちょっとすぎ、客電が消える。
トップバッターの浅見昂生が、春らしいピンクのジャケット姿でステージに現れた。
「それでは、開演しまーす!」という彼の大きな声に、観客は待ってましたとばかりに拍手を送る。
「春らしい歌をお届けしたいと思います」という言葉で紹介されたのは本日のWelcome Song、『Dreaming Butterfly』。
印象的なピアノのイントロが高らかに鳴り渡り、始まった。
浅見が歌い出すと、ステージは一気に華やかになる。
強い蝶の羽ばたきが聞こえてきそうな、伸びのある声がサビのメロディを歌い繋ぐ。
彩りのある歌声を聴き歌ライブの開演に添えてくれた。

1st Stage 林りゅうへい

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<photo by Yoshikuni Syouji>

セットリスト
2 1曲目
3 携帯電話
4 トイレの中で
5 トンネル(with 神山幸也)
6 うたうたいの旅(with 神山幸也)
7 宝物(with 浅見昂生)
8 胸ポケット

Per: 森下潤

続いて浅見は、出演者紹介に移った。
「過去に一度、(聴き歌ライブを)春に企画したことがあります」
3年前の今頃、ちょうど震災で中止した聴き歌ライブの話だ。
時を経てやっと実現した春の聴き歌に心躍らせているような笑顔だった。
「実はサブタイトルは次のアーティストのある1曲の歌い出しの歌詞なんです」
と浅見。「ファーストステージ!林りゅうへい!」の声に呼ばれ、ギターを手にした林がステージに現れた。
「暑くないですか?なんか、息切れちゃった。見てただけなのに…。これだけ(人が)入ると…さすがに…ね!」とのっけから観客と会話するようなMC。微笑ましい場面だ。
最初に披露されたのは『1曲目』という歌。
歌詞で歌い紡がれるのはその日の彼の風貌そのもの。下北沢、胸ポケット…と印象的なワードが続き、観客もこの曲の意味がきっとわかったことだろう。
「改めまして、林りゅうへいと言います」挨拶に続いて披露されるのは『携帯電話』。
「そんなにすごいと緊張しちゃう!」と彼もたじろぐほどの大きな手拍子と力強いギターのストロークが会場を音でいっぱいにする。優しく面白い歌声、「ありがとう!」というと曲中からもう拍手が湧いた。
観客が楽しくなる空間作りを早くも成し遂げてしまう。本人も「なんかもうこれで帰ってもいいくらいの盛り上がりですね!」と笑顔。
「ちょっと今日は、春だし、桜も咲いたし…というわけでもないんですけど、新曲を持ってまいりました!」
3曲目は『トイレの中で』。「想いを込めすぎたので規制が…」と林がなにやら怪しげなそぶりを見せていたが、どこかで誰かがきっと感じたことのあるだろう本音を“トイレの中で”歌うというこの曲。
今日はステージの上でさらけ出されてしまう。観客からはついつい笑いもこぼれ「あーいいですねそういうの」と林もニコニコ応える。全てを“水に流して”しまうと林は「おあとがよろしいようで!歌ってしまった!って感じですね」と笑った。
「ここから仲間達とやります」という呼び込みでステージに登場したのはパーカッションの森下潤と神山幸也の2人。森下のスネアと神山のグロッケンに林のギターという編成でお送りするのは『トンネル』。
ブラシとスネアのこすれる音にグロッケンの繊細な音色が、淋しげなギターと相まって静かな空間が訪れた。リヴァーブと、タイミングよく効きはじめた空調がまるで本当にトンネルの中のようにひんやりとした空気をかもし出す。
ラストはギターも強く鳴り、出口を目指し歩いていく。
強いストロークで始まったのは林が「ジョン・デンバーのことをおもって書きました」という『うたうたいの旅』。
大学時代からの友人であるとMCで語った神山とのハモりは相性抜群!ふたりの歌声にそっとカホンのリズムがついてくる。
旅の色が、景色が聞こえてくる。この旅路こそが、林の生き様そのものなのだろう。大サビのユニゾンはどこまでも響き渡り人々に明るい気持ちを運ぶ。拍手は鳴り続ける。神山がステージを去ると入れ替わりに浅見が袖から登場。ピアノの前に着席した。
「これは僕が大学を出るとき仲間に歌った曲」
「はじめて曲っぽいのができたなと思った」
「今でも大事にしている曲です」
いよいよ、歌詞が今日のサブタイトルにもなっている名曲『宝物』の出番だ。
懐かしさに目を細める林の表情。迫り来るメロディの波に涙を誘われる。
“僕は変わらないからまた会いに行くよ”という歌詞どおり、年月が過ぎても、変わらぬ良さを持つ特別な曲だ。
みんなが“優しい気持ちになれた”ことだろう。
林が「最後に…」と口にすると、客席からは「えぇー?!」と名残惜しそうな声が。
「僕はバスケットボールをやっていて、ずっとバスケの曲が書きたくて、やっと書けた、っていう歌です」
「今日はありがとうございました!林りゅうへいでした!」
ラストソングは『胸ポケット』。かつてバスケットボールを追いかけていた少年は今は音楽を信じ、その胸ポケットに小さな夢を持ち続けている。
客席にはこの曲に目を輝かせ、立ち上がる子供の姿もあった。彼の夢は歌となり必ず誰かに届いている。
変わらないことはとても難しい。だからこそ、変わらぬ良さを持つ音楽は、すごい。
それをまざまざと証明し、林りゅうへいのステージが終わった。

2nd Stage かなりやとうばん

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<photo by 雨音琴美>

セットリスト
9 どこかで春が
10 パフ
11 故郷
12 流れ星になりたいな(朗読 せきねふみえ)
13 涙はきっと…(朗読 せきねふみえ)
14 バスルームの人魚姫(榊原有菜 ソロ)
15 Dear マーガレット(神山幸也 ソロ)
16 折り鶴
17 アンコール リトルスターはだあれ?

歌とうばん:榊原有菜・神山幸也・浅見昂生

ギターを手にした浅見が若手の2人、神山幸也と榊原有菜を呼び込む。セカンドステージはこの3人でお届けするかなりやとうばんのライブだ。
「♪こんばんは~かなりやとうばんです」と早速綺麗なアカペラでご挨拶。1曲目は童謡『どこかで春が』。ぴったりと揃った混声三部。
マイクスタンドを寄せ合って、3人の声がひとつの音を成す。週に1度は集まって練習をしているとMCで語っていたが、練習量が見える実力派のユニットだ。
続いてはPPMの名曲『パフ』のカヴァー。手拍子が生まれ、温かい雰囲気が会場に満ちる。日本語パートはそれぞれが歌詞をしっかりと歌い、英語パートに入ると榊原の中音域が秀逸なハーモニーを描き出す。
3つの声ではなく1つの音楽に聞こえるのが素晴らしい。
いっぱいの拍手に包まれ幸せそうな笑顔の3人はメンバー紹介に移る。
「お堅い娘さんタイプ、そして彼が不思議な青年タイプ、それから愉快なおじさんの3人でやってます」という浅見のMCに観客からも笑いがこぼれる。
「はじめて声を合わせて、可能性を見出した曲です」と神山が紹介し始まったのは日本の唱歌で有名な『故郷』。
なじみの深いこの曲、客席には口ずさむ人の姿も。1番はユニゾンで、2番からは神山の高いトーンがそっとハモり、リードをとる榊原も日本語の響きを大切に歌い上げていく。3番は3人で目を合わせながら声を重ねる。
繊細なつくりもののように、美しい歌が完成した。
「ここからは少し僕らのオリジナルを」と浅見が言うと、作詞とうばんのせきねふみえが拍手の中から登場した。
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<photo by 雨音琴美>

せきねのポエトリーリーディングと共にお届けするのは『流れ星になりたいな』。
ギターのメロディに乗って優しいテンポで朗読が始まる。その瞳が、見えない流れ星を捉えたとき、神山の超一級品のソロパートで歌が始まった。浅見の声が慎重に絡まる、その一歩後ろで榊原は手話を披露。
2コーラス目からは榊原の高音も入り、最高のマッチングだ。ふくらみのあるメロディにあわせて声も膨らみ、会場はシャボン玉にくるまれたかのようにまあるい気持ちになる。
再びせきねにスポットがあたり、浅見がピアノの前へ移動。『流れ星になりたいな』の歌詞について語り合った。
「自分が流れ星になれたら、楽しそうじゃないですか?わくわくしませんか?」と目を輝かせるせきね。
想像力豊かな彼女の書いた詞でお送りする次の曲は『涙はきっと』。
ゆるやかなピアノの旋律に、メッセージ性の強い歌詞が刻まれていく。
浅見と榊原の伸びやかな声が広がり、神山のハーモニーがふんわりと重なり、涙も溶けるピュアな美しさに仕上がった。
続いてはソロコーナー。榊原がトレードマークのベレー帽をはずし、「ちょっと切ないラヴソングを届けたいと思います」と紹介しオリジナル曲『バスルームの人魚姫』が披露される。一気に艶っぽさを増す榊原の声色。リヴァーブがバスルームの中を彷彿とさせる。
うっとりと大人の色香を放ち、物語に入り込む榊原。しっとりとした切ない声で会場は一気にムーディーに。新境地を魅せつけた。
続いて榊原に替わり、神山がピアノに呼ばれるように登場。オリジナル曲『Dear マーガレット』を披露。甘く透き通る声は一輪の花をそっと揺らすそよ風のよう。ピアノの音が大きくなる中盤、声も高らかに増していき、“マーガレット”と何度も呼ばれるような歌詞とフェイクに目が離せなくなる。たった1曲で会場をその声の虜にしてしまった。
「早いことに次で最後なんですけど」という榊原の言葉に会場からは今日二度目の「えぇー?!」という名残惜しい声。
榊原が「かなりやとうばんから祈りを込めて」と紹介したのはオリジナル曲『折り鶴』。
イントロが始まっても止まぬ拍手。テーブルの上には、それぞれの想いが込められた折り鶴も並び、ステージを見守っている。
どこまでも、どこまでも飛んでいきそうな声。希望が高らかに羽ばたいていく。
手法を選ばない伝承ユニット、かなりやとうばん。メンバーとしては2回目のステージだったということだがいっぱいの拍手を聞くに、それは大成功に終わったのではないだろうか。

Main Stage Arearea

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<photo by 田口雅尚>

セットリスト
17 君に会えたら
18 マイフレンド
19 カワルセカイ
20 baby talk
21 新しい命へ(poetry reading)
22 未来へ
23 ココロヒトツ

休憩で華やいだ会場の灯りが落ちて、静けさが戻ってくる。
薄明かりのステージに浅見が登場し「それではお待たせしました」。いよいよメインステージの始まりだ。
シンプルな編成からは想像できないダイナミックな演奏。その機動性を活かして地方各地に出向き、歌の支援活動でメディアからの注目も熱い2人の、産休前ラストライブ。Areareaの登場だ。
「それではサクラ咲く頃にぴったりなこの曲から…」とRINOがつぶやくと、YUKIのきらきらとしたピアノがやってきた。
1曲目は『君に会えたら』。RINOが元気よくステップを踏む。“飛ぼう 命よ舞い上がれ”、Areareから送る命の讃歌だ。笑顔が晴天に咲き誇った。
歌パートが終わるなり、もう待ちきれない拍手が湧いて起こり、アウトロを飾る。もうクライマックスなんじゃないかと思うほどダイナミックなピアノで曲が終わり、会場は盛大な拍手に包まれた。
2曲目は『マイフレンド』。観客ひとりひとりと目を合わせながら“今日は会えて嬉しいよ”と語りかける。鼻歌みたいに軽やかなボーカルが春の陽気にぴったりだ。
3曲目『カワルセカイ』では突然押し寄せたダイナミックなピアノとRINOの威勢のよい「crap your hands!」の声に誘い出され、ステージの雰囲気が急展開!手拍子と高速のピアノテクニックがさんざめき、盛り上がりも最高潮!完全に観客の心をわしづかみにした。
「Hey,come on ...my sweet baby...YUKI」というRINOの愛のこもった紹介にはにかむYUKI。それもそのはず。4曲目『baby talk』は赤ちゃんとお母さんの語りべを歌った曲。YUKIは悪戯っぽい目線と鈴のような声色でRINOに話しかける。RINOもRINOで優しい笑顔を浮かべてゆっくり丁寧に語りかける。ささやきのようなトーキングが重なりあい、最後に“たのしみだね”と声をそろえると、やりきったような表情で観客の拍手に応えた。
息を切らす2人。観客の温かい声に励まされながら、MCが進行していく。
ここでまさかの大発表、「YUKIちゃんも新しい赤ちゃんができました~!」というRINOの声に会場は驚きながらもここ一番の声と拍手で祝福を贈る。奇跡のW妊婦によるライブが実現したのだった。
4人分の命を込めて、Areareaのステージは後半戦へ突入する。
「そんなおなかの中にいる新しい命に手紙を書いてきたので…」とRINOのポエトリーリーディング『新しい命へ』が始まる。
ピアノの旋律に、そっと羽でものせるかのように読み紡がれていく手紙。その内容に、会場からは笑いがこぼれる場面も。“居心地はどう?”という優しい呼びかけに、おなかの子はなんと答えただろう?胎内にいた頃を皆が思い出すよう、懐かしい気持ちを想起させられるのは何故だろうか。
“世界は綺麗なものばかりじゃないけど、綺麗に見える魔法を教えてあげる”。
RINOのその言葉が心に染み入るように、目を閉じて聞き入る人の姿さえあった。
「それでは未来への希望を託して、この歌をお届けします」。
そしてクライマックスに漕ぎ出す。万感の想いが詰まった『未来へ』。
歌詞に目を落とし、涙ぐむ人。ステージの2人をまばゆいばかりに見つめる人。口ずさみ、何かを思い出す人。琴線を揺さぶられる音楽がそこにあった。
ライブは終盤に近いのに、何かが始まる瞬間を、たしかに、たしかに私達は目撃したようだった。
ゆっくりとお辞儀するRINOとYUKI。拍手は止まない。
ここでRINOが「本当は去年の12月でいったん…と思っていた」と本音を吐露した。
「でも、産休前ライブやらないの?と色んな人に言われて…時期もすごく良い頃だったので(中略)こういうライブができて本当によかったなぁと。ちょっと1年くらいか、もうちょっとか休んでしまうかもしれないんですがまた、歌いたい…」
とRINOがつぶやくように言うとYUKIが
「来年のサクラの頃には…」と返し、未来への展望は明るいようだ。
「それまで皆さんとココロヒトツでいられるように!」というRINOの声で、最後はAreareaらしく『ココロヒトツ』で締めくくり。
ピアノの躍るリズムに手拍子が加わった。“今日は何人?” “今日は4人!”と言うとYUKIが笑顔で立ち上がり、最高に胎教に良いメロディを叩く。RINOのスキャットは底抜けに明るい子守唄。会場のココロをヒトツにして、彼女達の産休前ラストステージが終わった。
新しい命を祝福する拍手が響き渡る。
最後の言葉はやっぱり「サンキュー!」。

Special Session nobara records All Stars

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<photo by 田口雅尚>

セットリスト
24 笑顔に会いたい

大盛り上がりの会場の拍手は2人をなかなかステージから下ろさせなかった。客電がつき、パンフレットの歌詞が照らし出される。
RINOが「せっかくなので今日の出演者と、みんなで、歌いたい」と言うと、ステージを飾ったメンバーが次々に顔を出す。
榊原有菜、神山幸也、林りゅうへい、せきねふみえ、そして本日のプレゼンター浅見昂生。
「じゃ、いいですかね?このオールスターでいってみたいと思います!」
nobara recordsのそうそうたるメンバーが勢ぞろいでお送りするラストソングはAreareaの『笑顔に会いたい』。
「日本中世界中たくさんの笑顔が咲きますように!」とRINOが言うと、観客はここぞとばかりに手拍子を始め、パンフレットを片手にメロディを口ずさむ。榊原、神山がかなりやとうばんでも魅せたハーモニーで歌いだし、2コーラス目は林と浅見のボーカリストコンビにバトンが渡り、せきねも笑顔で歌い繋ぐ。観客席も笑顔でいっぱい。手を大きく振りながら、全員がサビを大合唱。
まだ帰したくない、帰りたくないという気持ちだったのだろう。何度でも、何度でも、サビが繰り返される。
いつまでも途切れない“ラララ…”が夜も更けた音倉に、響き続けていた。
<written by 雨音琴美>
<photo by 雨音琴美 Yoshikuni Syouji 田口雅尚>

2013.12.14 クリスマスチャリティーコンサート「未来へ」ライブレポート written by 雨音琴美

2013.12.14
クリスマスチャリティーコンサート「未来へ」
ライブレポート

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寒い寒い土曜日でも、人の行きかう恵比寿の昼下がり。
気温12℃、天窓.switchには暖かそうな服を着込んだ人々が集まった。
しかし開演時間が近づく頃には皆、その暖かそうな服を脱いでしまう。
今日は満席。人々の温もりをぎゅっと閉じ込めたライブハウスで、時間も日にちも少し早めのクリスマスコンサートが始まる。
<written by 雨音琴美>
<photo by Yoshikuni Syouji>

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祈りの歌〜賛美歌

セットリスト
1.祈りの歌 (Arearea)
2.Winter Wonderland (Arearea)
3.諸人こぞりて (アレリヤ クワイヤーズ)
4.あらのの果てに (アレリヤ クワイヤーズ)

すっと灯りが落ちると、とたんに会場は聖夜の空気を帯びた。
どこからとなく拍手が沸き、暗闇に一筋のスポットライトに照らされてトップバッター、主催のAreareaの登場だ。
この日最初の曲は『祈りの歌』。今日という1日を共に過ごす観客達に優しい歌声が捧げられた。
大きくRINOが手を広げると、会場には灯りが戻り、ハセタクの奏でる楽しいリズムが始まった。
2曲目はクリスマスの定番『ウィンターワンダーランド』。ライブのスタートに浮かれるRINOのヴォーカルに、雪を踏みしめるようなピアノの音色とボンゴの響きが揃う。
続いてRINOが「素敵なうたうたいの仲間」を呼び込み、かなりやとうばんとして出演の神山、榊原、浅見が登場した。揃いの緑のカードを浅見が配る。
聖歌隊風の特別編成だが「仲間達なのに名前がない」とRINOが嘆き、ここでセッションの名前が発表された。YUKIの考案した、Areareaの“Are”と、かなりやとうばんの“りや”をとった“アレリヤクワイアーズ”が採用され、彼らのデビューナンバーとして『もろびとこぞりて』が披露された。オレンジの照明にステージのベルベッドが照らされ、クリスマスカラーのカードを手にした歌い手4人とYUKIの横顔。本格的な聖歌隊より少しラフな格好だが、その声は一級品。美しい混声合唱を響かせた。
続いてもこの豪華な編成で送る『荒野の果てに』。サビのロングトーンに深みを感じる。テンポもぴったりでとても今日が初めてのステージとは思えない。それぞれが丁寧な表情で歌いあげる様も、聖歌ならではだろうか。

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かなりやとうばん〜榊原有菜ソロ

セットリスト
5.故郷 (かなりやとうばん)
6.流れ星になりたいな (かなりやとうばん)
7.私の青空 (榊原有菜)
8.アンパンマンのマーチ (榊原有菜)

Areareaのふたりがステージを去ると、いよいよかなりやとうばんの出番だ。
ギターを手にすると浅見は「今日が、今からやるのが、初ステージです」「しかも今日、天窓に出演するのは初めて」と語り、隣で息をつく榊原や神山もまた、その緊張感をあらわにした。
きちんと挨拶のメロディを奏でてお辞儀をすると、唱歌『故郷』を披露。ギター1本のシンプルな演奏と、美しい混声三部の中で、歌詞がきらりと光る。誰もが改めてこの曲の歌詞をひとつひとつ受け止め、感じ、噛み締めたことだろう。
まずは1曲を終え、ぐったりとした、あるいはほっとした顔を見せる3人。ここで一言ずつ、かなりやとうばんに込めた想いを語った。神山は「このユニット、気に入っています。」と笑顔を見せた。それに続いて榊原も「私もこのユニット、気に入っています。」「私の音楽の原点は合唱なので、また、声を合わせられるのが嬉しい」と語った。2人にたいして「自画自賛だ」と突っ込んでいた浅見もまた、結局は「このユニット、気に入っています。」と語り、若いうたうたい2人との連携プレーについて、「なんでもやるのがとうばんだ」と誇らしく述べていた。
続くナンバーはそんな彼らのオリジナル曲、『流れ星になりたいな』。1コーラス目は榊原が手話で歌詞を紡ぎ、神山がしっとりと歌声を重ね合わせた。ミラーボールで青いきらめきが散らばり、観客の胸にひとつ、またひとつと流れ星が落ちるよう。2コーラス目ではマイクの前へ戻ってきた榊原が宙までのびる美しいトーンでメロディラインを歌う。そこへ嘘のように繊細な神山のハイトーンでハーモニーが奏でられ、浅見の低音が支えることによって歌が完成した。向かい合わせたマイクスタンド、それぞれの歌声がしっとりと揃い合って、かなりやとうばんのステージが終わった。

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榊原をステージに残して去った神山、浅見に代わり、登場したのは再び楽器隊のYUKIとハセタク。
ここからは榊原有菜のソロステージだ。バックバンドの2人を背に、「元々クリスマスソングではないけれど、私の大切な歌をお届けしたいと思います」と『私の青空』を披露。先ほどの3人から1人になった緊張をものともせず、むしろ初ステージを終えたあとにほっとしてホームに帰ってきたような晴れやかな顔とゆるい声で余裕のヴォーカルを見せた。
「子供達に質問です。アンパンマンは知ってますかー?」と榊原。今日のステージは子供達もたくさん見に来ている。「今度は大人たちに質問です。アンパンマンは知ってますかー?じゃあ、アンパンマンは好きですかー?私の目指す理想のアーティストはアンパンマンです。」「かっこいいとは言えない(中略)でも大事な頭を食べさせてあげるようなアーティストになりたいです。」とアンパンマンの美徳を語った榊原。もちろん歌うのは『アンパンマンのマーチ』。うっとりするピアノと控えめなトライアングルのきらめきが冬の音を作り出す。段々とピアノがマーチングを始め、2コーラス目からは楽しくスウィング。躍るリズムに照明も回り出す!

子供たちオンステージ

セットリスト
9.手のひらを太陽に (榊原有菜+日テレ学院の子供たち)
10.赤鼻のトナカイ (日テレ学院の子供たち)
11.きよしこの夜 (All Cast)

一気に華やいだステージ、YUKIがそっと弾くジングルベルのメロディをBGMに6人の子供達が登場。日テレ学院から小さなサンタクロース達が歌声を届けにやってきた。7人で歌い出したのは『手のひらを太陽に』。子供達と榊原の手ぶりに、自然と会場からは手拍子が。YUKIの伴奏に合わせ、お互いに顔を見合わせる子供達と榊原。まるで音楽教室のような空間が生まれる。
榊原とYUKIがステージを去り、いよいよ子供達だけが舞台上を独占する。MCではそれぞれにマイクが渡り、特技や意気込みを語った。観客からは笑い声や拍手があがり、ここまでしっとりとクリスマスの雰囲気をかもしていた会場も、楽しいパーティーのようにHOTな空気に早変わり。
6人だけで挑むのは『赤鼻のトナカイ』。元気いっぱいに6人の声が揃う。歌詞にあわせた小さなダンスも繰り広げられ、充分すぎるエンターテイメント。照明より眩しい笑顔、ラストの決めポーズには会場もここ一番の大喝采を送る。
再び、RINOが登場し、「もう1回、うたうたいの仲間をお呼びして」と言うと、子供達とアレリヤクワイアーズ、あわせて10人のうたうたいとグランドピアノが、ところせましとステージを埋めた。まるでクリスマスの豪華なギフトボックスのような舞台上、RINOの「幸せなクリスマスを願って歌いましょう」の言葉と共に、会場も一緒になって合唱するのは『きよしこのよる』。歌詞の記載されたパンフレットを片手に、ステージの10人と会場の素晴らしいユニゾン、大合唱で、ライブハウスに歌が充満する。観客らの横揺れも心地よく、来るクリスマスをそっと想う時間だった。

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浅見昂生&Arearea

セットリスト
12.Sweetest love song (浅見昂生)
13.White Christmas (浅見昂生+Arearea)

ここからは会場の熱っぽい空気をムードある演出で青く冷やす、浅見昂生(Words&Hearts)の出番だ。ひっそりとした弾き語りのコーナー、会場も、冬の空気や雪の色をそっと思い出した頃。浅見はサングラスをかけると「子供の若さに負けず、大人は大人で」「クリスマスですから、ラブソングを…」とオリジナル曲『Sweetest love song』を披露。昼のライブであることも忘れて、シャンパングラスを傾けたくなるような、うっとりと聴き惚れてしまう歌声。ピンクの照明にあてられ、大人っぽい歌詞の“2人きり感”を存分に味わう観客の横顔。たった1曲ですっかり会場の心を奪い去ってしまった。

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再び、Areareaの2人が登場し、いよいよ待ちに待ったコラボレーションが始まる。「ついにこの日が来ましたね」と期待感をあらわにする浅見。「1度Areareaさんとセッションしたい」と思っていたそうだ。RINOとしては「コラボより、デュエットって感じ」らしい。いつもAreareaがクリスマスコンサートで披露している『White Chistmas』を、今日はデュエットで歌う。スローなピアノにロマンチックなハーモニー。深みがあり、ラグジュアリーな1曲に仕上がっている。まさに目を合わせ、息を合わせ、デュエットする浅見とRINOを横目に、YUKIのピアノソロはもはや芸術品!ミラーボールも白く光り、静けさの中にも彩を感じる美しい曲となっていた。

Areareaステージ「未来へ」

セットリスト
14.ママがサンタにキスをした (Arearea)
15.未来へ (Arearea)
16.ココロヒトツ (Arearea他)

浅見とハセタクが入れ替わり、ここからは主催Areareaのメインステージだ。彼女らは毎年クリスマスコンサートを開催しているが、今年はやったことのない、とても難しい曲という1曲をチョイス。挑戦するのは『ママがサンタにキスをした』。「みんなの力を借りたいから手拍子よろしく」とRINOが言うと、温かな手拍子がすぐさま始まり「歌えそう!」とRINOもニコニコしながら歌声で応えた。パーカッションと手拍子だけを頼りに高らかに歌が始まる。ダイナミックなピアノが唐突に絡んできて、賑やかな音が集まるパーティーの始まりだ!さすがは主催、ホームであることを示すような圧倒的な空間を作り上げた。
続いて、この日のコンサートタイトルでもある『未来へ』を披露。その前に、RINOからハッピーなニュースが届けられた。「恥ずかしいな〜」と照れながらも、「新しい命を、授かりました」と発表。悪阻の辛さを語り、RINOが何もできないときに「YUKIちゃんがフォローしてくれて本当にありがたいと思った」と感謝の言葉を送った。ファンの声をたよりにステージに立てていた、とも語り、大きな感謝の意を表した。「私のとこにくるってことは相当な魂(笑)」とRINOは笑う。『未来へ』は彼女達が大船渡の津浪伝承館のテーマソングとして生み出した楽曲。そのために東北へ通う中で授かった命にRINOは運命的なものを感じているようだ。話をするうちに「ごめん…」と声を詰まらせ、涙を流すRINO。「皆さんの大切な家族、大切な命が守られ(中略)、1つでもたくさんの命が残るように…」。いよいよ、という感じで始まった『未来へ』。さっきまで泣いていたのをものとはしない、強い歌。1人の命を預かったRINOの声は今までより強い決心のもと、紡がれていく。子宮の海を思い出すような波の音を生み出すパーカッション。会場の全員が、感慨深い想いで、それぞれにとっての“命”を無数に思い浮かべた時間だった。

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打って変わって愉快なリズムが始まり、「じゃあ、この曲で盛り上げちゃおうかな?」とRINOが微笑み、Areareaのテーマソング『ココロヒトツ』を披露。曲中、RINOに「最大の感謝を」と言われたYUKIは今にも立ち上がりそうな勢い、最大のボリュームでその感謝に応える。YUKIが「胎教にいいスキャット聞かせてね!」と返しを送ると、「これがいいのかよくわからないけど?」と笑いながら、RINOが美しいメロディをスキャットで紡いだ。「今日もあなたのリズムと歌えて幸せです」というRINOの紹介でハセタクがステージを独占!赤、青、黄、緑のライトに照らされて、楽器と技がここぞと光る。「今日はデラックスバージョン!」と、ここでかなりやとうばんのメンバーを呼び込むArearea。浅見はサンタのコスチュームで登場だ。RINOの「今日はこの6人+0.5、6.5人でココロヒトツになってみましょう!」という言葉にあわせ、アドリブで盛り上げていく6.5人。『未来へ』が最大と思えたが、やはりこの人数が揃うと違う。

クリスマスメドレー〜フィナーレ

セットリスト
17.クリスマスメドレー (All Cast)

  • Jingle Bells
  • Jingle Bell Rock
  • 戦場のメリークリスマス
  • We Wish A Marry X'mas
  • When you wish upon a star
  • 星に願いを
  • All I want for X'mas is you
  • 恋人がサンタクロース
  • ジングルベル

18.Happy Xmas-War Is Over- (All Cast)

さてクライマックスに用意されたのは今日のためだけのクリスマスメドレーだ。RINOが言うには「歴史的メドレー」らしい。浅見も「思ったよりも長いかも?」と観客の期待感を煽る。
スウィングしながら始まったのは『Jingle Bell』。のっけから笑顔のメンバー。RINOのトーキングのようなヴォーカルと、後半では榊原の爽やかなトーンのコーラスが楽しい。まるでパレードのようだ。サングラスをかけたWords&Heartsサンタがお送りするのは力強い『Jingle Bell Rock』。そのアウトロはそっと高音から粉雪の調べに変わり、『戦場のメリークリスマス』が重く静かに始まる。忍び寄り、色々な風で吹き付けてくるシンバル以外は何も寄せ付けない、YUKIとハセタクが独壇場のインストゥルメンタルを魅せつけた。RINOの華やかな声が戻ってきて緊張は途切れ、再び子供達を交えての『We wish you A merry Chirstmas』。優しいハーモニーに誘われ体を揺らす観客達。ここで満を持して、神山のハイトーンソロで物語られる『星に願いを』。ミラーボールが回り出し、子供達がそのきらめきを指差し、祈る。2コーラス目は日本語で想いを揃えて合唱。突然、星のリズムは弾けて、子供達も踊り出す。RINOと子供達の歌う『All Want For Christmas Is You』、明滅する照明、パーティーは止まらない。勢いそのままに流れ込んだ『恋人がサンタクロース』。赤い衣装のうたうたい10人はみんな誰かのサンタクロース。ピアノがふっと息をつくと、手拍子も最高潮になり、最後は全員で『ジングルベル』を歌う。パートの入れ替わりが巧みな、それでいて笑顔溢れる躍動のメドレーがライブハウスいっぱいに響きながら終わった。ライブ自体もいよいよ終盤を迎える。
「それじゃあ、今日一番の祈りを込めて、このナンバーをお届けしたいと思います」。RINOが言うと、浅見がギターとピックを手にし「今日は最後までありがとうございました!」と高らかに宣言した。
ラストソングは『Happy X'mas(War Is Over)』。控えめなサウンドに、神山の儚さを誘うハイトーンが、見ている人々の胸に雪のように染みていく。力いっぱい歌う人、しみじみと歌う人、会場中で“War Is Over”のフレーズが、重ねられていく。まるでそれは魔法のようにハーモニーが連なって、意味の深いエンディングを迎える。
RINOが「素敵な歌声をありがとう!」と言うと、全員がステージを去り、会場は暗転。
来るクリスマスとアンコールへの期待を込めて手拍子が暗闇に響き渡る。

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(Still images from video)

アンコール

encore
19.サンタが街にやってきた(Arearea+かなりやとうばん)

再び登場したうたうたいの面々とYUKI、ハセタク。止まぬアンコールにRINOが「名残惜しいですけれども、あともう1曲みんなで歌って、いいクリスマスを迎えましょうね」と応えた。
本当のラストソングは『サンタが町にやってきた』。アレリヤクワイアーズのラストステージだ。プレゼントBOXに巻かれ、たわんだリボンのようなわくわくのハーモニー。これから来るクリスマスが楽しみになる1曲だ。

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時間も日にちも、少し早めのクリスマス。観客が歌の贈り物をそれぞれ大切そうに持ち帰る姿が見えた気がする、そんなクリスマスコンサートだった。
<written by 雨音琴美>
<photo by Yoshikuni Syouji>

Arearea & nobara records presents
クリスマス・チャリティ・コンサート2013「未来へ」
恵比寿 天窓.switch

【演奏曲目】
1.祈りの歌 (Arearea)
2.Winter Wonderland (Arearea)
3.諸人こぞりて (アレリヤクワイヤーズ)
4.あらのの果てに (アレリヤクワイヤーズ)
5.故郷 (かなりやとうばん)
6.流れ星になりたいな (かなりやとうばん)
7.私の青空 (榊原有菜)
8.アンパンマンのマーチ (榊原有菜)
9.手のひらを太陽に (榊原有菜+日テレ学院の子供たち)
10.赤鼻のトナカイ (日テレ学院の子供たち)
11.きよしこの夜 (All Cast)
12.Sweetest love song (浅見昂生)
13.White Christmas (浅見昂生+Arearea)
14.ママがサンタにキスをした (Arearea)
15.未来へ (Arearea)
16.ココロヒトツ (Arearea他)
17.クリスマスメドレー (All Cast)

  • Jingle Bells
  • Jingle Bell Rock
  • 戦場のメリークリスマス
  • We Wish A Marry X'mas
  • When you wish upon a star
  • 星に願いを
  • All I want for X'mas is you
  • 恋人がサンタクロース
  • ジングルベル

18.Happy Xmas-War Is Over- (All Cast)
encore
19.サンタが街にやってきた(Arearea+かなりやとうばん)

【出演】
Arearea(アレアレア)
榊原有菜
浅見昂生(from W&H)
神山幸也
かなりやとうばん
日テレ学院の子供たち
per:ハセタク(from マチルダマーチ)

2013.8.30 「音倉デ聴き歌ヲ6」ライブレポート written by 雨音琴美

2013.8.30「音倉デ聴き歌ヲ6」ライブレポート

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 夏の終わり、じんわりと湿った熱い空気、夕暮れ、地下で、美味しい匂い、色とりどりの音楽と人。開催も6回目となる「音倉デ聴き歌ヲ」、なじみの人も、はじめての人も、それぞれが日のしごとを終えて集まった会場は満員だった。
<written by 雨音琴美>
<all photo by 雨音琴美>

Words & Hearts (浅見昂生 Solo Project)


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Set List
1. レクイエム
2. 風のタワー
3. 雨のレイトショー

vo. 浅見昂生 / per. ハセタク(from マチルダマーチ)

 時計の針も夜7時に近づいたところで、主宰の浅見が姿を見せる。「少々横暴な企画」と笑いながらも、今日は自身もアーティストとしてステージに立つためか、少し緊張している様子。ネイビーの洒落たサングラスをかけるとスイッチが切り替わったように、これまた洒落た空気をまとってピアノに向かった。この日のオープニングアクト、Words & Hearts(浅見昂生Solo Project)のステージの始まりだ。
 パーカッションのハセタクを率いての、1曲目は『レクイエム』。今回披露される曲はどれも20年ほど前に作ったものばかりとのことだが、時の流れを感じさせないのは根幹に眠るテーマが常に人々の身近な問題を捉えているからだろうか。ともすれば残酷な歌詞さえ、マイルドな声で歌い上げてしまう。
 続いて2曲目は『風のタワー』。鼓動のようなカホンの心地よい音が緊張感を増して、都会的なこの曲の雰囲気に客席を連れ出す。慟哭のようにうっとりと悲しいピアノ、透明の声が風となって吹き付けてくる。どこか煌びやかな音達は歌の夜空に哀愁がちりばめられたように極々美しい。客席も、もう待ちきれない!と言った感じで、溢れんばかりの拍手を送った。
 最後は『雨のレイトショー』。シンバルの水しぶきにざらざらとした雨音のようなカホンが、会場に雨を降らす。落ち着いたメロディと真っ直ぐな歌声、まるで雨音がぬくい涙を誘うようだ。”ふたりの物語をもう一度始めよう”と歌うWords & Hearts、トップバッターのレイトショーは、20年越しでも何一つ遅すぎない圧巻のライブステージであった。弾き語りという言葉がここまで似合う人も少ないだろう。ハートフルな物語を弾き語ったWords & Heartsに止まぬ拍手の雨が降り注ぐ。応えるように彼が「どうもありがとう!」と言うと、会場からも「センキュー!!」と声が返ってくる。
 明るい声の掛け合い、夕立が降って止んだような、心地よいざわめきが会場を満たす。

榊原有菜


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Set List
 4 Over the rainbow
 5 私のお気に入り
 6 会いたくなったらいつでもおいで
 7 かいじゅうのバラード
 8 手のひらを太陽に
 9 ありがとう
10 私の青空

vo.榊原有菜 / pf. YUKI(from Arearea) / per.ハセタク(from マチルダマーチ)

 サングラスをはずすと主宰の顔に戻る浅見。聴き歌ではもうお馴染みの榊原有菜を呼び込む。譜面が真っ黒になるまで練習しているという彼女がステージに姿を見せるなり拍手が増す。その波に乗ってハセタクのパーカッションが響きだすと、待ち構えていたように客席も手拍子を始める。1曲目は『Over the rainbow』。夕立のあとのような会場にいきなりド派手な音の花火を打ち上げて虹を架けてしまう。のっけからダイナミックすぎるピアノもグリッサンドの嵐!堂々とした歌声が孤を描いてどこまでもどこまでも虹は延びていく。全員が文字通りの笑顔になり、会場の熱気も上昇。ラストはエレガンスなアレンジでさっと一礼すると、「改めましてこんばんはー!」と黄色いひまわりのような挨拶をした。
 続いてもカヴァー曲、『私のお気に入り』。ポンゴの軽快な音に合わせてステップでも踏み出しそうなほど楽しそうな笑顔、フェイクの入ったヴォーカルも踊る。
 3曲目の前、MCで他界した彼女の祖母の話をする榊原。時に声を詰まらせながらも「今ここに立って聴いてくれてるかもしれないし、そこの空いてる席に座ってるかもしれない」。そう言って、会場にその姿を探すように目を閉じては泳がせながら、3曲目『会いたくなったらいつでもおいで』を披露。花が散るように、声の上から被さってくるピアノフレーズ、こちらへやってくる足音のような低音のリズム。心細そうな表情を見せながら、それでも懸命に歌う彼女の姿に会場も目が離せない。両手を広げる彼女はもうすべてを受け入れるようで、“命は永久に廻り続ける”と輪を描いてみせてくれた。ラストのスキャットで聴いた人々の心も洗われたことだろう。
 歌いきるとすっきりとした表情で、今度はサポートメンバーを紹介。4曲目は自身が中学生の頃に歌ったという合唱曲のカヴァーで『かいじゅうのバラード』。先ほどの足音のようなリズムは、ピアノの低音と手を組んでずっしりとした怪獣の足音に早変わり。大陸の匂いがする音の中で、その小さな身体には似つかわしくない怪獣の気持ちを歌い上げる。
 続いて5曲目は手話を交えながらの『手のひらを太陽に』。榊原の動きを真似る会場、「ちょっと無茶でしたね〜」と苦笑する彼女をよそに懸命に手話を試みる客席は賑やかだった。
 完全に打ち解けた客席に届ける次のナンバーは『ありがとう』。途端におおらかな声になる榊原。この歌の歌詞は詩人せきねふみえ氏のものだが、まるで詩集をめくるように丁寧に丁寧に言葉を歌い上げる。そのせいか、“ありがとう”という五文字の言霊の力が、よりいっそう増して届けられるような感覚に陥ったのは、果たして私だけだっただろうか。
 7曲目は『私の青空』。「皆さんの心の中に青空をつくれたら」と祈りを込めて歌う最後のナンバー。おどけたリズムとささやかな榊原のステップからは、人生には面白みも必要と訴えかけてくるよう。モダンな香りを漂わせながらも、スタンダードに表現しきるピアノに安定感を感じる。そこへ雲を突き抜けるような晴れやかな声が響き渡り、心の隙間を打ち抜いて真っ青な空にしてしまった。彼女には確実に、彼女の青空が見えているのだろう。
 虹を架けにステージへ現れた榊原有菜、会場の熱をアップダウンさせながら最後には全ての雲を払い、天晴れな笑顔で去っていった。

マチルダマーチ


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Set List
11 ハレルヤ
12 僕らのストーリー
13 サンバデファミリア
14 I need to be in love
15 暁ばかり
16 アサンテの朝
17 光の中へ

vo.山口由貴 / per.ハセタク / gt. ウエキ弦太 / lap steel 芳賀ヨティ

 ほんのりと温かいざわめき、休憩を挟み、後半戦のトップバッターは現在名古屋を中心に活動しているマチルダマーチ。久しぶりの東京公演、満員の客席に迎えられてヴォーカルYUKIとパーカッションのハセタクはステージに帰ってきた。毎回違う顔を見せてくれるこのバンド、今日はギターのウエキ弦太をつれた編成での登場だ。
「色々ありますが、とりあえず生きているので歌いたいと思います!」景気の良い高らかな声色でYUKIが言い放つと、いよいよライブが始まった。1曲目は『ハレルヤ』。セッションの空気を大切にしていると主宰にも評されていたバンドサウンドはまさに生きた音楽、今だけの音だ。生命力を存分に発揮し、生への感謝の想いを歌いきった。続いて『僕らのストーリー』ではMCでも「ちょっと懐かしい音」と言っていた通り、ハセタクのトライアングルの音がノスタルジックな気持ちにさせる。ひだまりを心地よいリズムで歩き回るようなハートウォーミングなYUKIの声。後半ではしだいに盛り上がり、観客の手拍子に誘われてボリュームも上昇。更に会場をHOTな空間にしてしまった。
 YUKIの陽気な誘い込みでラップスティールの芳賀ヨティが登場。彼を迎える拍手は自然と手拍子に変わり、3曲目は『サンバデファミリア』。ステージ上の人数も増え、安心したようにぬくぬくと歌うYUKIの表情が印象的だ。後半では踊りだしたくなるようなリズム展開、なにしろソロパートが長く、セッション感もすさまじい。音数がどんどんと増えていき、思わず客席も派手に歓声をあげる。
 ここで完全にヒートアップした会場の火照りを冷ますように、カヴァー曲『I need to be in love』を披露。今度は歩みの慎重なYUKIの声、切なげな表情と色気のある高音に息をのむ。ギターは寄り添うように静かに込み上げ、ラップスティールもここ一番の優しい音色で包み込む。ポンゴの音が温かく、わずかにタンバリンの音が色をつけていく。ひとつひとつの技が細かく、丁寧に音を成しているのがわかる。すっかりカヴァー曲を自分達のサウンドに引き込んでしまった。「こんな私も、落ち込みます。そんなときに書きました」。YUKIの切なげな表情は崩れぬまま、5曲目『暁ばかり』に入る。明るく温かい楽曲が印象的なマチルダマーチ、ここではじめて青みを帯びた暗い世界観を魅せた。決して音数が減ったわけではないのに、急にひそやかになるステージ。しかし完全な闇ではない、歌詞の中から月がひょっこりと顔を見せうつむき顔を照らすようだ。“もう少し もう少しだけ” “あと少し あと少しだけ”と重なり合うコーラスが自らに言い聞かせるように印象的だった。ここで、普段はあまりしないというメンバー紹介をするYUKI。これが今のマチルダマーチの家族なのだろう。暁の夜は明け、『アサンテの朝』が来た。メンバーの全身からアサンテ(=感謝という意味だそうだ)が溢れ出す。サビからの軽快なテンポに、見守る者たちもウン、ウンとリズムをとるようにうなずいていた。終わりの音は華やかに、今度は充実感という意味でもボリュームを増して曲が締めくくられた。
 ラップスティールの芳賀ヨッティを見送り、最後の曲の前、YUKIは現在国や時代が直面している問題について語った。「世界は変えられないけど、自分は変えられる」。そして年上の客層に向けては「仕事は退いても、社会の一員であることをやめないで」「私達を導いてください」。こう言い残し「今日はありがとうございました!」と元気な笑顔を見せ、ラストソングは『光の中へ』。イントロは静かだが、やはりサビからの盛り上がりには自然と手拍子が加わり、思わずYUKIも踊り出す。ハセタクもスタンディングで楽器を鳴らす。そのパフォーマンス力と自由度の高いステージングに、客席もどんどん盛り上げられていく。YUKIが煽ると、手拍子と演奏が追いかけあうようにテンポが急上昇し、最後には熱い拍手に会場が満ちた。笑顔でありつつ、またそれぞれが色々と考えるような顔をしている客席を見渡すと、マチルダマーチは満足げな表情で去っていった。ステージに、強い光が差し込んだような時間だった。

Arearea


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Set List
18 夏の匂い
19 マイフレンド
20 新しい朝
21 クロール
22 ココロヒトツ
23 未来へ

vo. RINO / vo. pf. YUKI / per.ハセタク(from マチルダマーチ)

 衣装を着替えたピアノのYUKIが席に着き、いよいよ最後はAreareaの登場。被災地でボランティア活動に積極的に取り組む姿勢が、メディアでも話題になりつつある注目のユニット。被災地に行っては帰ってくるたびに成長しているというその音楽に目が、耳が、離せない。うっとりとするようなエレガントなピアノSEに誘われて、ヴォーカルのRINOが登場。1曲目はこの季節にぴったりの切ないナンバー、『夏の匂い』。ソロパート中にも目を合わせては笑顔になる2人の様子に息ぴったりの仲の良さを感じる。図らずとも同じ方向を見上げて歌うその表情を見ると、それぞれに“夏の匂い”を感じ取り思い浮かべているようだ。
 短いMCでもこちらまで笑ってしまうような可愛らしい喋りを見せるRINO。「今日集まってくれた皆さんに…」と言い出すや否や、もう手拍子が始まり、観客に急かされるように始まった2曲目は『My Friend』。楽しそうにリズムを取る2人、その絆の輪にこちらまで飛び込ませてもらったような感覚。RINOが「呼びかけたい人がいるんだー!」「裏の主役、今日は4回目の登場だから、大きな声で呼ばないと出てこないかも!」と言うなり、客席はもうわかったぞといった顔つきで大きな声でハセタクを呼ぶ。パーカッションの入った派手な大サビを聴いて客席も歓声や指笛で盛り上がり、まさに大盛況の景色を見せた。
 続いては『新しい朝』。時刻は既に21時を回っていたが、紡がれる朝の風景とナチュラルな手拍子の音の温もりに、もう明日の朝が待ち遠しい。ピアノとパーカッションのコラボレーションもぴったりで、仲の良いAreareaの2人にしっかりとついていくハセタク、練習量がうかがえるようだ。跳ねるようなヴォーカルも息ぴったり。ピースフルな空気が会場に満ちた。
 ドラマティックなイントロをシンバルが掻き切って、オルゴールのような音色とトライアングルが描き出す、4曲目は『クロール』。壊れ物のように繊細に流れていた音と声、中盤からは流れに乗ってしっかりと泳ぎ出す。2人の“ふわふわ” “パタパタ”の掛け合いが面白い。プールの底の穏やかな光と波を思い出すような、夏休みらしい楽曲だ。
 ここで、Areareaの2人は、リクエストに応えて三陸旅行の土産話をした。旅の最中、畑や花を見て喜ぶRINOの姿を見てYUKIは自分とは違い、都会っ子だな〜と感じたという。育ちの違う二人が、同じ志のもとに長らく同じ道を歩み、今もこうしてステージに並んで立つことができることもまた、音楽があるからこそ。続く5曲目は彼女らのライブではお馴染みのナンバー『ココロヒトツ』。毎度異なるアレンジでお互いを紹介する歌だ。今日も躍るピアノにトーキングの入ったお喋りのようなヴォーカルが面白い。RINOのフリで紹介されたYUKIのピアノソロは豪快痛快、拍手も鳴り荒れる!YUKIの紹介を受けたRINOは被災地でも歌ってきたという漁師歌を披露!ハセタクの愉快なリズムに乗り、会場もどんどん熱くなる。ピアノはグリッサンドの大波、ブレイクの間にはYUKIがクラップまで入れてしまうという、まさに何でもアリな音の祭典で観客からの大喝采を招いた。
 最後に披露する曲は津浪伝承館のテーマソングとなった『未来へ』。RINOは阪神大震災での自分の経験を交えながら、災害の恐ろしさ、そしてまた、自分達がここに生きていたんだという事実が、100年、1000年後に伝わってくれたら良いと想って作ったと語った。「今日は大船渡に届くように、そして皆さんの大切な未来の命が守れるようにと思って歌います」。そう言うと、静まり返った会場にそっと音の波が押し寄せてきた。綺麗過ぎるメロディにのせられた歌詞には重みがあり、虚しさの奥に光の粒を見出したようにきらりと閃くものがある。太く強い声、しかし優しい声で歌い上げる。明るいほうへと高まっていくピアノ。シリアスな歌の中でも、絶対に笑顔を忘れないのが2人のポリシーなのだろう。パーカッションが海の音と終演を連れてきた。しかし、聴き歌ライブの終わりは、いつもゴールじゃなく、更に先を見据えたパフォーマンスが用意されている。“ここからまた始まる”と歌うArearea2人の目は、まっすぐに未来を捉えていた。鳴り止まない拍手はそんな2人をステージから下ろさせまいと言わんばかりのアンコールにそのまま変わり、思わず笑い出してしまう2人を温かい光が包み込んでいた。

アンコールセッション


Set List
24 笑顔に会いたい

全員

 ここで再び今日の出演者が全員呼び込まれた。ヴォーカリストが4人、ピアノ、パーカッション、ギターがそろい、ラップスティールの芳賀もマラカスで参加。拍手を浴びる8人が大所帯といった感じで勢ぞろいした。「最後はみんなで歌って」とRINOが言うなり、観客も待ってました!といった様子で喜びの声をあげる。ラストソングはAreareaがボランティアバスのテーマソングとして作った『笑顔に会いたい』。
 ここで主宰の浅見が、今だけスタッフ以外の撮影を許可するという旨を伝えると、観客はそれぞれスマートフォンやデジタルカメラを取り出し舞台に向けて笑顔で構えた。
 マチルダマーチYUKIのカラッとした声と榊原有菜の柔らかで真っ直ぐな声、女声ヴォーカルのコラボレーションが美味しい瞬間だ。楽器はこれでもかというほどに主張しあいながらどんどんボリュームを増していき、お腹もいっぱい。2コーラスではWords & Hearts浅見がハイトーンで女声パートを歌いきるという場面も。楽しげに笑いあっていたRINOとYUKIの表情もここ一番、底抜けの笑顔だ。
 そんなステージを見守る観客もまた、楽しくて仕方ないといった表情。フラッシュの嵐と化した会場はきらきらと星が散ったように眩しく、しかしながら手拍子も止まない。
 音と光の嵐の中で、個性が活き活きと躍り出す、誰もが本当に良い笑顔でそれを見ている、熱い空間が広がっていた。次回の聴き歌ライブでも、是非またこんな満面の“笑顔に会いたい”ものだ。
 大迫力のステージが終わり、会場は大喝采。それは素晴らしい一晩を作り上げた出演者のみならず、お互いを讃えあうように、夜も深い音倉にずっとずっと響き続けていた。
<written by 雨音琴美>
<all photo by 雨音琴美>

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2012.11.11「音倉デ聴き歌ヲ5」ライブレポート written by 雨音琴美

2012.11.11「音倉デ聴き歌ヲ5」ライブレポート

11月の寒い雨の中、音の温もりを求めた観客が音倉に集まった。久しぶりの開催となった今回の聴き歌ライブはそれぞれの持つキャラクターの光る、彩り豊かな夜となった。
<written by 雨音琴美>

神山幸也


Set List
1. Star Compass
2. 月キレイ
3. Your Story
4. バディー
5. 白球ストーリー
6. ホントノキモチ

pf; 新沼耕太
gt; 大貫成一
ba; 岩田拓哉
per; 稲葉信芳

「うっとりしてしまうほどの良い声色(声の色気)を持っている」そう紹介されて最初にステージに上がったのはハートフルナチュラルボーカリスト、神山幸也。バンドメンバーを4人連れて笑顔での登場。今日が特別な一日になるようにと願う、1曲目は『Star Compass』。元気いっぱいの声と音が真っ直ぐに客席を目指す。パーカッションの輝きは星となり、そのリバーブ感は宇宙の調べ。前のめりなヴォーカルで華やかにオープニングを飾った。2曲目は『月キレイ』。波紋のようなピアノに、忍び寄るカホンの音。ロマンチックな弦楽器と仄灯りのような声が絡み合い、深くしっかりとした美しい情景を描き出す。現実感が遠ざかるようなアウトロでもう観客はすっかり彼らの世界の中だ。「家族のような、世話をかけっぱなしなメンバー。11月11日は記念日になっています。少し大きなステージに立てた日です。三年後の今日、また同じメンバーでステージ立てる喜びを噛みしめています。」「離れたり、解散してみたり、またこうして集まってみたり、好きとか嫌いとか、どうなんでしょうかね?僕は大切に思ってます。」彼とバンドとの絆が覗えるMCに続き、大好きな友達に書いた歌という『Your Story』を披露。ますます笑顔になる神山。音の圧がすごい。想いが溢れるほどに、声は大きくなる。伝えたければ伝えたいほどに、音も大きくなる。“君が必要なんだ”というサビの歌詞に、聴いていた側も大切な人の存在を思い出したことだろう。続けざまに軽やかなピアノと手拍子で始まった『バディ』。浮かれたギターのソロ、踊り出したくなるようなリズムだ。バディからバディへの願いを込めた明るい歌、会場は笑顔に包まれる。そしてこの日最も盛り上がりを見せた5曲目『白球ストーリー』。足踏みのような弦楽器のカッティングに、しんとした野球部員達の緊張感が感じられる。やがて歓声のように溢れ出すピアノ。サビに来ると、バンドメンバーの手も跳ね上がる勢い。足早なリズムが鼓動のよう、ライブ感溢れるパーカッション、アナウンスのようなエコーのかかった声で音倉が球場に早変わり。直球のボールのように真っ直ぐな歌に、観客の拍手も鳴り止まない。ピアノ新沼のグリッサンドで曲はフィニッシュ。その歓声が嘘のように、最後の1曲はとても静かな『ホントノキモチ』。「いつも何かどこかに隠しながら、時には出しながら、皆さん生きてると思います」「初めて歌として、“ホントノキモチ”を書いた曲、あなたにお届けします」そう言って歌い出すと神山はとても優しい表情で歌い出した。“君”という歌詞が出てくる度にじっくり一人ひとりと目を合わせている。“君に歌をあげたいな”というのは、まさに彼が常に掲げている理想なのだろう。後半からは、やはり少しずつ大きく、伸びやかになる声。気持ちが恥ずかしげに見え隠れしているような落ち着いたピアノ。とろけるようなギターに日だまりの温もりのようなベースの音。鼓動のようなカホンに、うっとりとしてしまう声が重なる。“僕にできることはこうして歌うことだけ”3年前に大きなステージに立った記念日に、自分達の在り方を改めて提示した神山幸也with リトルスターファミリー。パワフルなステージングとしなやかなパフォーマンスをやり切った、とても満足そうな顔でライブを終えた。

榊原有菜

Set List
1. My favorite things
2. アンパンマンマーチ
3. ありがとう
4. 手のひらを太陽に
5. You'd be so nice to come home to
6. Autumn Leaves
7. いたいのとんでいけ

pf; YUKI (from Arearea)
Alto Sax (from Funk★Ranger) M5&M6

「歌で人の役に立ちたい。エネルギーを与えたい。」そんな目標を持ち、石巻やサマーキャンプのステージで着実に活動を重ねている榊原有菜。深くお辞儀を一つして彼女が歌い出すと、その圧倒的な歌に会場も驚きを隠せない。呟きのように始まったのは彼女の定番曲『My Favorite Things』。1人とは思えないような存在感の大きさ。小さな身体から出ているとは思えないオーラだ。均一な声と、不規則に跳ね回るYUKIのピアノの調べで1曲目からステージを自分の世界にしてしまう。「アンパンマンは愛と献身のヒーロー。強い正義がぶつかりあうと争いになってしまう。誰かのためになるような変わらぬ正義を貫く、アンパンマンのような歌い手になりたい」そう笑顔で表明する榊原、2曲目は『アンパンマンマーチ』。マーチと言えば行進の曲だが、彼女が“行くんだ”と歌うとまるで羽ばたいてゆくようだ。純粋な眼差しは確かにみんなのためになるような未来を描いていることだろう。続く3曲目は、大好きな人が毎日言っていた言葉でもあるという『ありがとう』。“ありがとう”の言葉が果てしなくリピートされるこの楽曲、ありふれた言葉がこんなにもしっとりと胸に沁みる歌は他に無いだろう。しかし少し切ない涙を誘われるのは、やはり彼女の中に大切な人の存在があるからなのだろうか。「皆さんの優しさを分けてもらう時間が来ました」そう言って彼女が始めたのは手話の練習。「私は楽器を使いません。両手がフリーなので、これを使って何か表現できるなら」。客電が点き、会場が一つになって両手を掲げて歌う『手の平を太陽に』。身体を動かすとますますライブは楽しくなるものだ。全員が“みんなみんな友達”になれたような一体感。そんなホットな会場に呼び込まれたのはアルトサックスのSANA。熱を冷ますクールなナンバー『You'd be so nice to come how to』を披露。リアルなサックスの音色に会場からは感嘆の息が漏れる。先ほどまでのあどけなさを残しながらも、一気に艶やかなステージに早変わりだ。お互いを高め合うように見つめ合う榊原とSANA。ライブ感が音と共にクレッシェンドしていくのがわかる。続く6曲目はシャンソンのナンバー『Autumn Leaves』。主人公をかっさらうような勢いで観客を引きつけるサックスのソロ。しかしひとたび榊原が歌い出すとその存在感はやはり本物だ。彼女の足踏みがコツコツと木でできたステージを鳴らし、温もりあるリズムが生まれる。アナログレコードから流れてくる音に耳を傾けているようなオールドな色が見えてくる。そのあまりの完成度の高さに、会場からは拍手喝采!!“本格”を魅せつけた瞬間だった。最後の曲はオリジナル曲『いたいのとんでいけ』。「心の痛み、体の痛み、全ての痛みが、なくなるように…」と榊原は想いを込めて歌った。まるで絵本をめくるようにゆったりとした声とピアノに、本当に痛みが取り除かれるよう。“望むこと全部してあげたいの”、“心配しなくていいよ ずっとここにいるから”と歌う彼女は本当に愛と献身の女神として歌を歌い続けるのである。涙を超えてゆくブリッジのメロディー、観客も涙を誘われる。今日流した涙もまた愛になるのだろう。感動のままにステージは終了。ピアノYUKI、アルトサックスSANAと共に、粒ぞろいな本格派のライブを披露した榊原有菜。
自分の想いの丈を出し切ったパフォーマンスだった。

せきねふみえ

Set List
1. 青空を探して歩いていこう
2. 船頭かあさん
3. ありがとう

pf; 浅見昂生

第2部の始まりを告げるのはポエット、せきねふみえ。今回初登場となる彼女は、10年間で120作にも及ぶ詩を書き続けてきた。作家本人によるリーディングという、貴重な体験を観客に与えてくれた。オーガナイザー浅見のピアノ演奏が始まると、せきねは「気楽な感じで、食べつつ飲みつつ聞いてください」と丁寧にお辞儀をして、本を開いた。最初に読みあげるのは『青空を探して歩いていこう』。ピアノと歩みを同じくして、言葉をひとつひとつ、まるでガラス細工でも扱うかのように大切に読み進めていく。最後のパートに差し掛かると前を向き、いっそう明るい声になる。ラストの一言が抜ける青空に吸い込まれるような笑顔で閉じられた。続いては『船頭かあさん』を朗読。ノスタルジックな音に重なる“ねんねん ねんねん”という優しい声かけ。モノローグと情景との読み分けは、非常に難しいものである。しかしそのニュアンスは、書いた本人だからこそ自然と出てくるもの。美しいバランスで紡がれる詩の世界観に、聴いている者も知らず知らずのうちに引き込まれていく。最後に披露するのは先ほどのステージで榊原有菜が歌った『ありがとう』のリーディング。聴いたばかりのはずなのに、すっかり姿を変えた「ありがとう」に目が耳が離せない。曲と切り離された言葉は、その重さ、色味、質感を変えて私達に届けられる。聴く度に見る度に違う姿を見せてくれるものだろう。かつて音楽の概念が生まれた古代ギリシャの時代には、音楽と詩と舞踊はひとつだったという。作者はそれら3つを1人で制作していた。しかし音楽や楽器が発達していくにつれ、段々と詩や舞踊は切り離されて考えられ、音楽の添えものになっていってしまったのだ。こうしたポエトリーリーディングでは、詩と音楽との結びつきを私達に思い出させてくれる。音楽が生まれた頃の、本来の在り方を彷彿とさせてくれる。これも立派な音楽体験=聴き歌である。丁寧にお辞儀をして颯爽と帰って行ったポエットせきねふみえ。彼女の言葉は在るべき音楽のかたちを私達に再認識させてくれる魔法かもしれない。

林りゅうへい

Set List

1. 答え合わせ
2. トンネル
3. 携帯電話
4. 胸ポケット
5. ビビッてんだろう?
6. 言えないよな
7. それぞれの物語

gt; 加藤一誠(from ヒカリノート)

イベントの最後を飾るのシンガーソングライター林りゅうへい。原点に戻って一発録音の音源を収録した『solo2』をこの日リリースした。「シンプルでサラっとしているようで、実はこだわりがある」そんな歌作りをしているという彼が描くのは、日常の物語。生の音を大切にしている彼は、たくさんの匂いがする楽曲を連れて、ステージに現れた。ティータイムの会話のようなMCに始まり、1曲目は『答え合わせ』。ハーモニカで小さな希望が飾られた歌詞達は、日記帳から飛び出してきたかのようだ。ページをめくるようなリズム感。気持ちの答え合わせを描いたこの楽曲からは人と人の心を通い合わせようとする彼の心が伝わってくる。サポートギターの加藤一誠を呼び込み、次に披露したのは『トンネル』。ボトルネックによるギターの音色は繊細で、モノローグがトンネルに響くよう。しっとりとした空気を振り払うようなカズーの音で始まったのは『携帯電話』。感情の起承転結が、曲の展開と合わさってコミカルに描かれる。これぞ21世紀の日常歌。こんなことあったんだよ、というつぶやきをこんなに贅沢な音で大袈裟にできるのが彼の才能だ。ここまで来ると林本人も「タオルもってこい!」と言ってしまうくらい、会場はホットになっていた。「大人になると、夢は持っていたいと思います。そういう想いで書きました」、続く4曲目は『胸ポケット』。2本のギターがこれまでの歩みを照らす。昔のおもちゃ箱を開いて、ひとつひとつを並べるような丁寧な歌だ。世の中には背を押してくれる曲が沢山あるが、一方でこれは、想いを包み込んで励ますような一曲。彼の歌には“それでも”というスタンスが覗える。それでも良いだろう、とか、それでも頑張ろうだとか。そしてやがては“それがいいな”に発展していく。自分の日記をめくって読み聞かせるような歌は、最後に必ず“君”へ繋がる。胸ポケットに夢を入れて、きらきら輝く彼の歌は、聴いている者にもその輝きと肯定感を分け与えてくれるのだ。オーディエンスもそんなそっと寄り添ってくれる楽曲に心を癒されたことだろう。ここで先ほどステージを終えた神山幸也が再びゲストボーカルとして登場し、『ビビってんだろう?』を披露。日常のちょっとした悪戯心を描くこの歌。時折挟まる口笛やフェイクのフレーズがまた憎い。トリオが仕掛ける可愛らしい悪戯に、会場もくすっと微笑んでしまう。心の奥にある小さな不安をくすぐって、笑わせてくれるような一曲だった。神山と加藤が拍手に包まれてステージを下りると、林のギター一本でとうとうと紡がれる『言えないよな』。三拍子の重たい足取りに、先ほどまで盛り上がっていた会場はすっかり夜道のような空気。恋心を“言えないよな”と思うシンプルなメッセージに、聴いた者はピュアな心を思い出す。夜道を行く恋の先行きが気になるような余韻を、スッと残すように歌い上げた。最後の曲は『それぞれの物語』。林がMCで「すっごいすっごい大事にしてる歌」と口にする名曲だ。先ほどよりも明るい三拍子のリズムは物語の始まりを祝福する。一際高らかな声で「大事にしてる歌」を歌う林は、色々な気持ちや言葉を、歌という日記帳に詰め込んで出かけていく旅人のようだ。汗をかいても、トンネルを抜けても、携帯電話をなくしても、好きという気持ちを言えなくても、それでも、行くのだ。いつの間にか、ギターも強く強く刻んでいる。日常の片隅から胸の真ん中に向けて真っ直ぐ伝えてくる林りゅうへい。その歌声と、新しい音源の発売、旅立ちを祝福するオーディエンスの拍手は鳴り止まなかった。

アンコールセッション

Set List
1. うたうたいの旅

pf; YUKI (Arearea)

「おいでよ!」という林の声で、旅仲間とも言うべき歌うたい達が集まってくる。感動のリーディングを終えたせきねふみえ、自分なりのパワフルなステージを披露した榊原有菜、仲間達と記念の日を分かち合った神山幸也、そして最後のステージを終えたばかりの林りゅうへい。4人の歌が、ピアノYUKIの演奏が合わさり、ラストソングが始まった。最後の一曲は『うたうたいの旅』。底抜けに明るい林のギターストローク。加えてマラカス、タンバリンとボーカリストらは自分たちの手で音を作り上げていく。まるで自分で自分の道にレールを敷いているような光景だ。どこからともなく湧いてくる手拍子に4人も笑顔になる。今日のうたうたい4人が揃って歌う豪華なサビ。この日最も会場がひとつになれた瞬間だった。終わりのギターフレーズについ淋しさを覚えるほど、全員が笑顔になれた時間だった。雨の降る寒い夜、熱くなるほどの音楽に体を揺らした観客、出演者達は、様々な想いをここで描き、また明日から『それぞれの物語』へと旅立って行くのだろう。音倉デ聴き歌ヲ5は、凍える秋に熱い何かを築いて華やかに終演した。
<written by 雨音琴美>

2011.08.28「音倉デ聴き歌ヲ4」ライブレポート written by 雨音琴美

2011.08.28「音倉デ聴き歌ヲ4」ライブレポート

真夏の暑さも和らぐ夕時、「音倉デ聴き歌ヲ」第四回が開催された。それぞれの過ごし方で開演を待つオーディエンスを軽快なBGMが出迎える。第二回出演アーティスト、マチルダマーチの「ihana」だ。本来であれば4月に開催だったが、節電の影響から延期になっていたこのライブ。「音楽は電気を使う。しかしその電力を人々のエネルギーに変えて行ければ」と、企画の浅見昂生は語った。
<written by 雨音琴美>

林りゅうへい

Set List

1. 煙臭い町
2. 携帯電話
3. トンネル
4. 宝物
5. うたうたいの旅
6. それぞれの物語

最初のアーティストは音倉デ聴き歌ヲ2ではユニットとして出演していた林りゅうへい。日常のささやかな出来事を心温まる歌詞とフォークスタイルで客席に届けるシンガーソングライターである。本当に日常会話のように聞く者をほっとさせる口調で挨拶すると早速演奏に入った。一曲目は『煙臭い町』。MCでの気さくな印象とは、また違った口調で語りかけてくる。抜けの良いヴォーカルがたった一本のギターのフレーズと寄り添うように混ざり煙が立ち上るように繊細に歌い上げた。続いて「ここ最近で一番ショックだったこと」を紡いだ新曲『携帯電話を披露。先ほどの煙のように静かな曲から一転、カズーが登場しギターのストロークも力強いものに。携帯を紛失した際のショックな気持ちを歌にしたというが、後半ではその想いもサウンドに乗って晴れやかなものとなる。と、唐突にギターのストラップが切れるというハプニングが起こるが本人もびっくりした顔を見せ、おどけたパフォーマンスで見事に乗り切った。久しぶりの開催でどこか張りつめていた会場が一気に緩み、音楽というフィールドで相互が打ち解ける瞬間を目の当たりにした。続くナンバー『トンネルからは、サポートでベースのモーリーが登場。とぼとぼと一人歩く淋しさのようなギターを、温かなベースが励ますようにビートを刻む。四曲目は学生時代に出会った人を想って書いたというバラードナンバー(もしくは名曲と書きたい)『宝物これまでのどの曲ともまた違った表情を見せる声色、彼の目にはどんな思い出が映っているのか。そんな彼を見守る客席には涙も。穏やかな曲で驚くほどに胸は熱くなるものだ。次に披露したのは『うたうたいの旅』。「叩くときっと楽しくなるよ」という林の言葉通り、オーディエンスもクラップで参加し、会場は笑顔に満ちる。先ほどよりも力強い声とハーモニカが盛り上がりを連れてきた。最後の曲は「『それぞれの物語』。華やかなハーモニカのフレーズが、発車ベルのように響き渡る。思い出を置いて旅立つ者を乗せ、サウンドが次の場所へと導く。さりげない日常の風景を切り取りながら生きてきたから、振り返った時にも、切り取ったささやかな思い出で胸がいっぱいになる。彼はそういうアーティストなのだと、この曲が教えてくれたようだ。親近感の湧く日常的なMCと、そんな日々を温かく彩る曲とサウンド。私達にもこのステージでの思い出を残し、「どうもありがとう!」と彼は舞台を降りていった。

榊原有菜

Set List

1. My favorite things
2. 海の心
3. Smile
4. シャボン玉
5. 月の沙漠
6. 涙はきっと
7. 椰子の実
8. 祈りの歌
9. Over the rainbow

pf; YUKI (from Arearea)
per; ハセタク (from マチルダマーチ)


シンガー、歌手、アーティスト、歌姫、ディーバetc.、この世に歌をうたう者を表す言葉は数あれど彼女にぴったりなのは“うたうたい”。そんな紹介で舞台に現れた榊原有菜。ピアノのYUKIとパーカッションのハセタクを連れて颯爽とマイクを手に取った。彼女にとっての「歌をうたうこと」とは、どんなことなのだろうか。見守る会場の空気は一曲目『My favorite things』からぴんと張りつめる。シンバルの呼ぶ波に乗って一人の少女がやってきた。満面の笑みと苦みのある表情、時には可愛らしい表情を繰り返しながら、激しいパーカッションにも負けない余裕の歌唱で会場を魅了する。序盤から腕を大きく振り上げ、堂々のパフォーマンスだ。演奏中とは打って変わって、鈴の音のような声で挨拶をし「広い心、思いやりを持って生きたい」とコメントし、歌い出したのは『海の心』。軽快なピアノのは飛沫のように、凪いだ優しい海ではなく、確実に絶えることのない波を運ぶ海を連想させる。ストイックな練習を積み重ねてきた事がはっきりとわかる歌唱力、表現力で美しいだけではない海の“動”を感じさせた。間髪を入れずに始まった『Smile』では
見る者を圧倒するステージングから一変。西洋絵画の天使のように穏やかな微笑みを見せ歌いきった。「心から素晴らしいと思った歌を、ジャンルを問わず歌っていく」童謡の魅力に気付き、親しみやすく未来に日本の素晴らしい歌を伝えたいとコメントした彼女。四曲目は大人から子供まで数多くの人が親しみ深い『シャボン玉』。繊細なトライアングルとポップなピアノがシャボンの玉感を生み出す。輝くようなボーカルはシャボンに映った虹のように華やか。続いてはこれもまた有名な童謡ナンバー『月の砂漠』。心細げなピアノ、低音は歩く度砂に沈む足。カホンの音色が砂嵐のよう。そして月明かりに艶めくような大人っぽいヴォーカル。無邪気な子供らしいナンバーから一変して大人の世界観を全面に出した曲である。童謡と一口に言っても、双極的なこの二曲。どちらも音を見て楽しめるようなアレンジで、童謡の可能性や魅力をたしかに感じられた。後半戦一曲目はオリジナル曲『涙はきっと』。MCで「今年は心が弱ることがよくあり、涙について考えた。」
「涙は流れるだけじゃなく、力を授けてくれるのでは」と彼女は語る。力強く、息吹を感じる、優しい声色。彼女の涙が授けてくれたものはその歌声なのだろう。しっとりした会場の空気を変えたのは七曲目、『椰子の実』。どこからとなく湧いてきた手拍子とモダンなパーカッションのアレンジに榊原自身も盛り上がった様子。ドラマチックなピアノソロと爽快で心地よい声!ダイナミックなステージングで客席を圧巻した。メンバー紹介を挟み、オーディエンスと掛け合いをし、満を持しての名曲『祈りの歌』。彼女の本気の声が客席をびりびりと揺らし、全員がひとつとなって祈りのフレーズを合唱。拍手の続きが自然と手拍子を生み出し、最後のナンバーは『Over the rainbow』。ここ一番のエネルギッシュな歌唱とバンドのパフォーマンスに客席の温度も上昇。榊原が清々しいまでに天高く手を振り上げると、会場からの大喝采が彼女を包み込んだ。まさに音楽を通してパワーが増大したステージだった。

三感詩音

Set List

 1. てのり東京タワー
 2. Rain
 3. 歌う花
 4-8. ショートストーリー
     I dream a dream
   ヴィオラソロ
     今、彼女に会った
     星から降る金
 9. いつかどこかで
10. ハッピー☆トレイン

アンコール

11. ハッピー☆トレイン

最後を飾るのは、クロスオーバーなかたちで音楽を提供し続ける代名詞のないアーティスト集団「三感詩音」。音倉デ聴き歌ヲには初参加の面々だが、初めから、満面の笑顔でする挨拶には、様々なステージをこなしてきた経験を感じる。一曲目『てのり東京タワー』では早速ヴォーカルの瀧本が抜群の安定感で高音を歌い上げる。ビブラートは優しく胸を震わせ、ロマンチックな生野のヴィオラソロに客席もうっとりする。ヴィオラの男声音域がヴォーカルのハイトーンを邪魔しないのだ、とMCで語っていたが、まさに相性がぴったりの音色である。それを深川のピアノがしっかりと支える。三つの音が綺麗に均等に絡み合ったバンドスタイルである。二曲目、『Rain』。ピアノの落とした雫がヴィオラの温もりで地面に広がる。甘い歌声が会場を濡らし、幻想的な空間となった。震災を受け、「歌ってなんて無力なの」と思った。しかし全国で子ども達と触れあい、これから、今こそ、音楽の力が必要なのだと再認識したと語る瀧本。披露した新曲『歌う花』は、その経験がそのまま曲に現れていた。自身が目で見て感じた想いを、直に伝えてくる演奏だった。ここで三感詩音の見所「ショートストーリー」が展開する。クラシック音楽やミュージカル音楽など、敷居の高そうな音楽をもっと気楽に耳にしてもらいたい。そこでクラシックの名曲を盛り込み実体験を元にしたオリジナルストーリーを語るのがこのコーナーなのだとか。「私の昔話を聞いてください」とつぶやき、歌い出したのは『I dream a dream』。気楽に、と言っても決して手ぬるくは無い。歌のお姉さんでの経験を活かした
瀧本の演技力、歌唱力と、数々の名曲を奏でてきたバンドの演奏力で、たった三人だけで完全な世界観を形成した。切々と語られる、年上の男声への儚い恋心はヴィオラソロへ繋がる。明と暗がどちらも魅力的なパガニーニの『カンタービレ』が、生野の手によって
物語の彩りに変わっていく。女性と笑い合う恋の相手を見た主人公、胸を痛める複雑な想い。『今、彼女に会った』では本当に泣き出しそうな声で、瀧本が情感たっぷりな歌唱を見せた。絡み合う深川のピアノと、生野のヴィオラが、主人公になりきる瀧本をそっと慰めるように寄り添う。全身で歌う姿はまさにミュージカルの登場人物そのものだった。ついに恋を諦め手放すことにした主人公を見送る、ショートストーリー最後の曲は『星から降る金』。力強く客席を震わせるビブラートは旅立ちの合図。王子と王の親子の愛を描く曲は、見事に主人公と想い人の気持ちと混ざり合い、小さなライブハウスが、まるミュージカル上演中の大ホールのように変身した。主人公になりきり、物語に入り込む。その一方で、実体験が大きな基盤となり、確かな説得力で訴えかけてくる。本当に不思議なアーティスト集団だ。八曲目『いつかどこかで』。エレピのきらきらした音色が道を照らす。
「生きる場所探して 歌い続けたい」と歌う、クロスオーバーな彼らはこの先いったいどんな未来へ向かうのだろうか?「またやりたいね!」とMCで笑顔を見せた彼女達の次の舞台にも期待だ。最後は会場とひとつになって歌う『ハッピートレイン』。軽快なピアノのリズム、ヴィオラが途切れの無い線路を敷く。窓に灯る明かりはエレピの音、手拍子で加速したライブハウスという列車は歌声を乗せて走る。いっそう明るい声と音色、そして笑顔で口ずさむ客席。全員が温かく未来を照らすようにして、三感詩音の壮大な舞台が幕を閉じた。

アンコールセッション

鳴り止まぬ手拍子に答え、三感詩音のメンバーが再び登場。瀧本の明るい声に呼ばれ、林、榊原がステージに戻ってきた。今日のステージを振り返り、「みんなで歌いたいです!」と瀧本が誘い、曲が始まる。参加アーティスト達も肩を並べ、もう一度、本当の全員で歌う『ハッピートレイン』。先ほどよりもより楽しそうに歌う瀧本、女声パートを難なくこなす林、優しさに満ちた声で加速をつける榊原、そうして三人の声が混ざり合ったサビは、この夜一番笑顔が溢れた時間となった。深川のダイナミックなグリッサンドで締め、会場は歓声に包まれた。一度は延期になった音倉デ聴き歌ヲ4は、音楽の作り出すエネルギーを肌で感じさせてくれる三組のアーティストの手により、その場に居た各々の背を押してくるライブとなったことだろう。
<written by 雨音琴美>

2010.07.31「音倉デ聴き歌ヲ3」ライブレポート written by 雨音琴美

2010.07.31「音倉デ聴き歌ヲ3」ライブレポート

<written by 雨音琴美>

佐藤拓也

Set List

1.君に逢いたくて
2.Story

pf. : KOSEI ASAMI

2010年7月31日、「音倉デ聴き歌ヲ3」は、暑い夏の夜に開催された。会場は満席、さまざまな年齢層が集まり賑わいを見せている。18時45分、オンタイムでライブがスタート。照明がそっと、日の入りの色になると、オープニングアクトをつとめる佐藤拓也が登場した。はきはきとした第1声からは、とても今日が初めてのステージとは感じられない。間もなく1曲目、『君に逢いたくて』を歌う。浅見の弾くピアノの音色に合わせて、伸び上がる、美しく強い糸のようなヴォーカル。観客やこの会場を越え、遠い誰かにさえ歌いかけるような目線は、やはりとても初ステージとは思えない印象だ。抑揚のある声に歌詞への想いが宿り、意志の籠もった歌に観客も心動かされる。歌を口ずさみながら弾く浅見の美しいピアノが、寄り添うように声と絡み合う。「人と人が支え合う時間は限られたもの、だからこそ大切にするべき」と語った佐藤は、2曲目に『Story』を歌う。1コーラスはそっと優しく包み込むように、2コーラスは力強く誰かを守る決意をするように、想いを詰め込んで心いっぱいに歌っていた。曲の盛り上がりに合わせて高まるピアノ、こんなに声を隠し持っていたんだ、と感嘆してしまうほどのヴォーカルは、会場に来ていた全員の胸を震わせたことだろう。再び、はきはきとした口調で「ありがとうございました」、と堂々去っていく佐藤。もっともっと聴いていたい、心通わせていたいと思わされる、強い揺さぶりに目が覚めるようなステージだった。

榊原有菜

Set List

1.Night and day
2.Fly me to the moon
3.ひと休み
4.BLOWIN' IN THE WIND
5.Part of your world
6.My Favorite Things
7.希望という名の船
8.祈りの歌

pf. : YUKI (from Arearea)
per. : HASETAKU(from マチルダマーチ)

「音倉デ聴き歌ヲ」に毎回に出演しているアーティストとして、「積み上げていく何かを感じていただけたら」、と紹介されたのは榊原有菜。半年ぶりにステージにあがったその姿にもう戸惑いはない。張りつめた一瞬の沈黙の後、歌い出した途端、顔には満面の笑みが。1曲目は、アフロなテイストに仕立てられた『Night and day』。すっかりここをホームとしきったような威厳あるパフォーマンスだ。美しい英語の発音は相変わらず。前回までのピアノとのセッションに、今回はパーカッションも加わったが、リズムを刻む深い音に負けることのない声は圧巻である。2曲目『Fly me to tha moon』は、一転クールテイスト。月の丸みと影を兼ね備えたような丁寧な歌に惚れ惚れとする。YUKIのピアノも、ハセタクのパーカッションも、彼女の抑揚に合わせて一体となり、バンド意識も感じられる。「無理に頑張らない」とトークで語った、3曲目はオリジナルの『ひと休み』。よりいっそう、自然の彼女に近い歌声に想いが滲み出て、"自分らしさ"を最大限に表現している。飛び交う音、沢山のアーティスト…、そんな1つの街の中で1人のシンガーがそれとしてあるべきだ、と優しい歌の中でそっと決意し、言い聞かせているようにも感じられた。4曲目は『BLOWIN' IN THE WIND』。日本語、英語、どちらもしっとりと歌い上げ、会場に一陣の風が語りかけてきたようだった。後半、おなじみの『Part of your world』、『My Favorite Things』で夢見る少女の気持ちをすっかり歌いきると、オリジナル曲、『希望という名の船』を歌った。曲の繋がりに物語を感じるとすれば、その終わり際を飾り、次の物語へと続いていくような曲だ。不安げな表情はなく、仲間と共に曲を紡いだ1艘の船、続く広い海への航路を見守っているような気分にさせられる。最後は「壊れていく地球を想う歌」、『祈りの歌」』を熱唱。パンデイロとパーカッシブなピアノが次第にクライマックスに、さらにそれらのボルテージに負けない強いボーカルに、祈りが込められ、感動のラストに達した。ワンマンライブの発表をして、榊原は舞台を去る。物語の続きが、待ち遠しくなるステージだった。

神山幸也

Set List

1.帰り道
2.Tears in Heaven
3.月キレイ
4.白球ストーリー with Per. : HASETAKU(from マチルダマーチ)
5.When you wish upon a star

「詩と曲の個性的な世界」と紹介を受け、登場したのは神山幸也。ギターを弾きながらの、温い透明感のあるハイトーンヴォーカルに会場中が一気に魅了された。簡素で率直な話し方に、やはり温もりがある。昔を懐かしみ振り返る『帰り道』では、思い出と出くわした時の微妙な心の揺らぎまで存分に表現していた。日本語でないと想いが伝わらないこともある英語詞の歌も、ギターとその柔らかな歌い腰が温度を伝えてくる。『Tears in Heaven』では、ひんやりクーラーの効いた地下の会場に、ほっとする灯りを授けていった。3曲目は『月キレイ』。神山がトークで語った「まんまるのおつきさま」がこちらにも見えるようだ。サビに向けうっとりとする声は輝きを増し、ギターのハーモニックスが呼んだ白い月は、温もりを共にして会場に届く。数年前に彼のステージで同じ曲を聴いたことがあるが、月日が経つほどにすれていく人間とは反して、ピュアさが増したヴォーカルに驚いた。スペシャルセッションとしてパーカッションにハセタクを迎えての『白球ストーリー』。ちょうど前日、母校の野球部の甲子園出場が決まった。自分は野球部ではなかったが、当時の部員達を想い出し、「彼らに捧げたい」という神山の言葉に会場からは拍手がわき起こる。パーカッションの参加により、球場の興奮や試合の高揚感がびしばしと伝わってくるアップナンバーだ。演奏しているのが2人とは思えない、見えない球児達がそこにいるような盛り上がり。大きな拍手と声があがり、会場も活気に満ちた。最後に歌ったのは神山が「音楽の良さを気付かせてくれた曲」と語った、『When you wish upon a star』。一転シンプルな演奏と優しい声が、まどろみを誘う小さな星明かりのようにやって来た。聴いていた会場の人々の心までキレイにしてしまうほど純度の高い音楽に、間違いなく出会った瞬間だった。「またどこかで会いましょう」という言葉と小さな灯火を観客に残してステージを終えた。

Arearea

Set List

1.ふるさとは明日も雨だろう
2.夏の匂い
3.ねえお父さん
4.捨てるな
5.ココロヒトツ
6.マイフレンド
7.とくべつ

 4、5、6 with Per. : HASETAKU(from マチルダマーチ)
最後に登場したのは、今年活動10周年を迎えたArearea。ピアノのYUKIも、ようやく家に帰ってきたような、朗らかな表情でピアノの前に座った。RINOの爽やかなMCと共にステージが始まる。故郷、神戸への想いを歌ったバラード曲、『ふるさとは明日も雨だろう』は、他愛ない家族の風景を懐かしむように、遠く想いを馳せるように歌われた。艶やかな声色と息のあったコーラスワークが何より魅力的だ。続く『夏の匂い』は、五感をくすぐるような描写が美しい、切ない恋のワルツ。涙を堪えるようなピアノソロに、こちらの想いは高まるばかりだ。「改めましてこんばんはー!Areareaでーす!」。明るいトーク、乙女の楽しい会話に観客の口元もついほころぶ。やがて話題は父親との関係や思い出話に移り、次の歌へと続く。3曲目『ねえお父さん』。「ねぇ、お父さん…」というRINOの語りかけに始まり、父の存在をリアルに感じさせる言葉で曲が紡がれていく。父親を持つ全ての人の胸をいっぱいにして共感を呼ぶ、お父さんとの温もりの物語。会場で思わず涙した者も少なくないだろう。後半は、今夜三度目の登場となるパーカッションのハセタクが加わった。『捨てるな』は夢を追いかける人に送る歌。YUKIのピアノとハセタクのパーカッションがダイナミックに混じり合い、絶妙なグルーブ感。「捨てるな」という一言に力強いメッセージが籠もり、さまざまに巡る夢への想いを、RINOの、この時ばかりはブルージーなヴォーカルが歌い切った。間髪入れずに次の曲、スウィングなビートに乗せてミラクルなメンバー紹介が繰り広げられる『ココロヒトツ』へ。会場から手拍子が湧く。それぞれのソロとスキャットの思い切ったパフォーマンスの素晴らしさ!。ここにアーティストが音楽やライブにかける想いがぐっと凝縮されているのではないかと思う。会場を巻き込んで、夏の日差しにも負けないような熱いパフォーマンスだった。続くナンバーは、ミディアムシャッフルの優しい曲、『マイフレンド』。RINOもYUKIも会場のひとりひとりと目を合わせるように、大切に歌った。ハセタクを送り出すと、RINOは真剣な眼差しで口を開いた。今日のオーガナイザーは、実は歌の先生。ある日、声が突然全く出なくなって、歌をやめるか、手術を受けるか、と本気で悩んでいた時に出会った。「だからもし今日、私の声が綺麗だなあと思ってくれた人がいたらそれは先生のおかげなんです」RINOが感謝の言葉を伝えると、会場から拍手が。そうして困難をも乗り越え10周年を迎えたAreareaへの大きな拍手でいっぱいになった。「何でも手に入る時代、食べ物や洋服に比べたら音楽なんかは無くても生きていける、それでもこうして歌える場所があることに感謝したい」と語り、ラストに歌ったのは、『とくべつ』。タイトル通りの特別な想いがこもったバラードだ。今夜、パワフルで楽しくてエネルギッシュなステージを魅せて来た2人が、最後に一番しっとりと歌い上げる。「特別な夜だから この想い伝えたくて」というサビのフレーズは、まさに特別な夜に感謝を伝えた2人の想いそのものだ。2人の歩んできた10年分の軌跡がそこに詰まっているような、歌。胸いっぱい、といった表情で演奏しきった2人と同じように、会場の誰もが胸をいっぱいにしたステージだった。

全員セッション

Arearea(RINO YUKI) 神山幸也 榊原有菜 佐藤拓也

1.少年時代 with Per. : HASETAKU(from マチルダマーチ)

鳴り止まないAreareaへの拍手は、やがて今夜集まった全員への拍手へ。RINOの呼びかけで出演者が再びステージに戻って来た。全員が並んだところで、今日の感想を一人ひとりに尋ねていく。「ずっと緊張してて・・・」と初ステージを終えた佐藤、感謝の気持ちを伝えた。「時間を計りながらトークの練習をした」という榊原を受け、RINOが「そういうのする?」と尋ねると、神山は「いたしません(笑)」と答え、会場がほっこりと笑いに包まれる。昔からAreareaへの憧れがあり、「今回共演できて本当に良かった」と述べる神山。「みんなの夏が素晴らしい夏になるように」というRINOの言葉でクライマックスとなり、全員セッションの『少年時代』が演奏された。ハセタクのシンプルなパーカッションと美しいピアノの演奏に4人のヴォーカルがたっぷりと乗る。佐藤はここでも強く美しいヴォーカルを魅せ、神山の甘いハイトーンが、それを受けてサビへと繋ぐ。間奏ではYUKIのピアノが充分に主張する。榊原がしっとりと夏を歩くように歌い出せば、RINOが夏の空のように爽やかな声で包み込み、4人のユニゾンを誘い込む。低音と高音と、歌と演奏が重なり合って、デザートのようにおいしい時間だった。胸も心もお腹もいっぱい、大満足の1曲が夏の一夜を華やかに飾り、「音倉デ聴き歌ヲ3」は止まぬ拍手の中で幕を閉じた。
<written by 雨音琴美>

2010.02.07「音倉デ聴き歌ヲ2」ライブレポート written by 雨音琴美

2010.02.07「音倉デ聴き歌ヲ2」ライブレポート

<written by 雨音琴美>

ココカラ

Set List

1.Rosie
2.大きな木の下で
3.トンネル
4.耳をすませば
5.君住む街まで
6.うたうたいの旅

最初に登場したのは下北沢を拠点として活動中のココカラだ。温かいギターの音色と自然に入ってくるカホンのリズム。まるで干し立ての布団に飛び込んだような空気で会場が満たされていく。最初の2曲では温かいメロディとリズムでほっこりとした雰囲気を見せたが、3曲目の「トンネル」という曲では物憂げな表情が垣間見れた。カホンの音も重く鼓動のように響き、歌声にも淋しさが宿る。優しい音色ではあるが、先の見えないトンネルを不安げに辿る暗い印象の曲だ。しかし次の「耳をすませば」では、前曲の道のりを照らす「たくさんの頑張れ」をアップテンポで楽しげに歌いあげた。「君住む街まで」は都会に出て行く友を明るく見送る様子を描いた歌。会場に来ていた人々、夢を追う者達に強く感動を与えたように思う。母心とは違った、友を想う大きな愛情、強すぎるほどの優しさ。何より本当に友を見送った事があり、また自分も歩みを止めない者にしか書けない歌詞のリアルさに涙が出そうな一曲だった。最後の曲は「うたうたいの旅」。一際高らかなハーモニカとパーカッションがラストを盛り上げる。このライブを経てまた『ココカラ』旅が始まっていくような、まさに彼ららしいナンバーだ。間奏から自然と湧いた手拍子は段々と増え、ヴォーカル林が「どうもありがとう!」というと客席から大きな拍手が。他愛ない日常を語るMCを挟みながら、演奏の中ではしっかりとした自分達の方向性を伝え、会場をまでをも一体にした、ココカラ。これから始まる『音倉デ聴き歌ヲ』を盛り上げ、またここから続いていく全ての人の時間に暖かい光を残すステージだった。

榊原有菜

Set List

1.ひと休み
2.Sky Lark
3.希望という名の船
4.Smile
5.My Favorite Things
6.祈りの歌
7.Starlight

pf:YUKI (from Arearea)

ピアノのYUKIと仲良さそうに登場したのは前回の「音倉デ聴き歌ヲ」でも圧巻のステージを披露した榊原有菜だ。1曲目の「ひと休み」は、『都会のざわめきの地下で芸術を繰り広げている』、まさにこの会場にふさわしい、優しい曲だ。2曲目は「Sky Lark」。低音の響きやウィスパーなどが斬新で、空を舞うひばりのごとく晴れやかに歌い上げた。オリジナル曲「希望という名の船」をしっかりと歌いきった後は、あの有名な「Smile」。MCでは曲にたいするエピソードや思い入れが語られた。しっとりとした歌声に心が宿り会場に届けられる。完全なる原曲のコピーではなく、その音色ひとつひとつを自分のものにしていくという本気のカヴァーを魅せられたと思う。「My Favorite Things」は表情や歌声が豊かでまさに自分のものとして歌いこなしている印象、まさに『お気に入り』の曲になったということであろうか。続く「祈りの歌」では躍動するピアノに沿う温もりの声色を披露。ラストの曲は「Starlight」。オルゴールのようなピアノが星明かりを奏で、繊細でうっとりする声にも温かな光が宿る。「僕はまた歌を歌うよ」という歌詞にもあるように、このステージを終えてまた歌い続けていくという未来を客席に伝え、舞台を去った。誰かのために、何かのために歌うという彼女の音楽に対する強い姿勢を感じられた気がした。歌い続けていくという『決意』を、全体からキャッチできる力強いステージだった。

マチルダマーチ

Set List

1.イハナ
2.サンバデファミリア
3.アサンテの朝
4.モーニンググローリー
5.小さな星
6.何もない世界

第二部の最初は『極上ミュージック』との紹介を受け颯爽と登場したマチルダマーチだ。1曲目の「イハナ」はフィンランドの言葉で「素晴らしい」という意味。今日が素晴らしい夜になるようにと挨拶。鮮やかなパーカッションと共にステージが始まった。可愛らしいがたくましく芯の通ったヴォーカルがギターとパーカッションを従えて色取り取りの音達を真っ直ぐに支えている。音を楽しむという原点において非常に長けているバンドだ。2曲目はブラジルのサンバのリズムで盛り上がる。パーカッションのハセタクの鮮やかなソロプレイ」には思わず客席からも歓声と拍手が湧いた。3曲目ではアフリカへ。マサイ族の言葉で「ありがとう」という単語を使った「アサンテの朝」だ。続いてはオーストラリアの雨期の前に発生するという雲の映像を見た感動から作ったという「モーニンググローリー」。曲自体の流れが大らかな雲のようで、映像を見た感動がこちらにも伝わって目の前に景色が広がるような曲だ。一転して次の「小さな星」ではどこか淋しげにも聞こえる歌詞を三拍子に乗せてそっと歌い上げた。『色々な国の言葉や音をちょっとずつ借りて演奏している』とMCで語っていたこのバンドだが、最後の曲は「何もない世界」。「満たしたいだけ 何もない世界を」と語りかける歌詞は、まさにバンドの想いそのものなのではないか。豪華で満腹になるギターソロやパーカッションの鮮やかな音、そして願うようなしっとりとしたヴォーカル、間奏から段々と音が増え、まさに満たされていく感覚。グローバルな『極上ミュージック』をまじまじと見せつけたマチルダマーチの力強いステージもまた、前の2組と同様に音楽への想いを歌って終了した。会場の全ての人々が満たされた、極上の時間となった。

LILLET(リレット)

Set List

1.natural ion sound
2.風
3.手のひら
4.言葉にできない (withマッキー)
5.You Raise me up (withマッキー)
6.アヴェ・マリア (with マッキー)
7.勇者への祈り

アンコール

1.流人
2.海の心(with 榊原有菜&YUKI)

最後に登場するのはLILLET。深呼吸してゆっくり鍵盤に手を載せる。水音のようなシンセと忍び寄るようなハミングで会場を癒しで満たしていく。まるで物語の始まりを告げるような、もはや自然音の集まりに近い「Natural ion sound」の後には爽やかで安らぐ「風」を披露。弾き語りとは思えないほど、丁寧で集中されたヴォーカル、生命への大きな母心を歌い上げるアーティストだ。MCでもその柔らかな笑顔は、とにかく全てのものへの『感謝』を想像させる暖かいものだった。3曲目「てのひら」では独自の視線から恋とも愛とも違うような、切ない人間愛を語りかけるように繊細に歌った。童謡のように優しい詞やメロディが会場を包み込む。1曲が終わるごとに、彼女は目を閉じて、まさに何かに感謝したような安堵の表情で鍵盤から手を離す。緊張感がなく非常にリラックスしたステージである。ここから彼女はカヴァー曲を披露。「今夜のパートナー」というLILLETの紹介で、キーボードのマッキーが登場。大切な人との悲しくはない、角出を祝うような別れを経験したという彼女が感じた想いを歌うために「この曲を借りて」と選んだのは「言葉にできない」。感情とミックスされ、先ほどの笑顔からは考えられない今にも泣き出しそうな声で歌うLILLETに聴いているこちらが泣き出しそうだった。生命の母的な一面が一度引っ込み、感情の海に浮かぶ一隻の船のような純度の高い切なさがそこにあった。続いては「今まで支えてきた人の顔が浮かぶ大好きな曲」と語り、「You raise me up」を披露。目を閉じて歌うその瞼の裏にはたくさんの人の顔が浮かんでいるのか。転調からは観客を見渡すようにひとりひとりの目を見て歌い、ここでもやはり彼女の強い『感謝』を目に見えるように感じた。そして「アヴェマリア」。深海から染み渡るイオンのような透明な声で歌いきった。最後の曲は「勇者の祈り」。果てしない世界を想像させる歌。ステージ上のLILLETが、まるで大地の真ん中で一人で歌っているような錯覚に囚われ、五感を疑うほどに空気が震撼した。その錯覚の醒めないうちに、LILLETは曲を終え、無言でお辞儀をするとステージから去っていった。

アンコール

鳴りやまない拍手はやがて足踏みを揃えたようにアンコールへ。再び登場したLILLETは「正直な話、毎回アンコールを用意しているが、いただける時とそうでない時があるので、今日は嬉しい」と感謝の意を表した。まもなく、全ての照明が消され、暗闇の中、アカペラで「流人」を披露。暗闇の方が音はよく響くものだが、まさにこの瞬間真っ暗闇の中で聴いたLILLETの歌声は洞窟に響き渡る水音のように小さく、しかしはっきりと聞こえ、観客達を不思議な空間へ引きずり込んだ。歌いきって照明がついた後の拍手は止まず、アンコールは「音倉デ聴き歌ヲ」初のセッションへ向かう。再登場したのは榊原有菜とピアノのYUKI。年齢の離れた3人のアーティストと、年齢の離れた作曲者が書いた「海の心」を歌う。「性別や年の差に関わりなく共通点を持てたことが嬉しい」とLILLET。個性の違う2人の紡ぐ新しい世界。『ふたつの心合わせてひとつ』という歌詞の通り、海の波のようなハーモニー。ピアノも波音のように穏やかで、かけあうコーラスは極上。うっとりするほど美しく声が重なった瞬間だった。最後にプレゼンターの榊原有菜が出演者の全員を紹介し、会場からは一層大きな拍手。アンコールまでたっぷりと魅せられた「音倉デ聴き歌ヲ2」が華々しく終演を迎えた。
<written by 雨音琴美>

2009.10.25「音倉デ聴き歌ヲ」 ライブレポート written by 雨音琴美

2009.10.25「音倉デ聴き歌ヲ」ライブレポート

<written by 雨音琴美>

千佐都

Set List

1.シーユーアゲイン
2.招待状
3.春待月 雨模様
4.悲しみ十代
5.ここんとこ

黒の衣装に細身を包んで颯爽とスポットライトの下に現れたのは19歳の歌い人、千佐都。挨拶に代えてさっとギターの弦を弾くと、ステージが始まった。目を閉じて歌うさまは夢見る少女のようで、目を開けばまっすぐに客席の人間をとらえ、濁り無い瞳で訴えかける。しかし曲が終わりMCに入ると、はにかんだ笑顔を見せる。前半は「シーユーアゲイン」「招待状」など心のきしむような失恋歌が多かったが、可愛らしく少し幼い声で歌う時もあれば、人生の悲哀をたっぷり込めて何もかも知り尽くした大人の女性のように歌う時もあり、少女と大人の狭間で揺れる等身大の19歳は、作品性だけでなく表情や声にも現れていた。細い体で、まるでギターにしがみつくように演奏するシルエット。13歳でギターに出会ってからずっとずっと弾いてきたのだろう。今も、そしてこれからも楽器と一緒に見てきた世界を彼女は呟くように歌い上げていくに違いない。最後の曲は「ここんとこ」。言葉遊びが効いていて親しみがあり、日記のような曲だが、だからこそ日常の中からメッセージ性を汲み取った、彼女らしい曲だった。告知によれば、ライブの回数を把握出来ないほど盛んに活動しているようだが、普段は横浜をメインに活動している彼女にとって、今回のライブは良い経験となったのではないだろうか。立派に歌いきり、名残惜しむ事なくさっと手を振ると彼女は振り返らずに大切なギターと共にステージから去っていった。純真無垢な一面と、汚れた世界を知っている一面と、両方をちらつかせながら『自分』をストレートに歌う千佐都は、次にどんな経験をしてどんな歌を歌うのか非常に楽しみである。

榊原有菜

Set List

1.My Favorite Things
2.ひと休み
3.Part Of Your World
4.Autumn Leaves
5.どうした太陽
6.希望という名の船
7.Over The Rainbow

千佐都に続き、同じく19歳の榊原有菜の登場。MCの間も優しくさり気なくピアノの音が響いており、サポートのYUKIとの仲の良さが覗える。まだ二度目のライブということで「心臓のドキドキを止める方法を教えてほしい」と緊張を語っていたが、ひとたび歌い出すと、とてもリラックスした様子だった。「My Favorite Things」では難しい英語の発音も、とても綺麗にこなし、手の動きや表情も鮮やかだった。英語詞の部分では圧倒的な美しさを魅せた彼女だったが、日本語詞の部分では可愛らしい女の子のような一面もあった。名詞の羅列にもきちんと心が籠もっており、聴いている者を歌の世界観へ引きずり込むほどの強い感情移入を持って歌っているのだと感じる。ひとつひとつの曲にたいして、違う主人公性を持って、まるでミュージカルのように歌うのだ。「ひと休み」ではタイトルのようにとても安堵した表情を見せ、「Part Of Your World」では憧れや怒りや淋しさが、声色にあらわれていた。そこまでの可愛らしい表情も「Autumn Leaves」では一変して大人っぽくなり、妖艶さまで感じられた。後半は「どうした太陽」「希望という名の船」といったオリジナル曲を披露。やはりカヴァー曲に比べ思い入れも深いのか、より一層心を込めて歌い上げてくれた。感動で胸がいっぱいになるクライマックスだったが、ラストの「Over The Rainbow」ではYUKIが楽しそうに弾くイントロに始まり、彼女も手拍子を求め、客席と一緒になって笑顔でステージを終えた。今後の活動にも期待が募る、演技派のヴォーカリストのステージだった。

nowhere

Set List

1.Sunnyday
2.like a bird
3.ダイア
4.黒猫
5.東京の花
6.月夜のカイト

休憩を挟んでの第二部、まずはnowhereのステージだ。本来は他の楽器メンバーも居てバンドの編成となるのだが、今日はヴォーカルの「小笹」とギター&ピアノの「斎藤」だけ、裸のままnowhereとしてシンプルな編成での登場。今まで作った曲とこれから作っていく曲とを死ぬ前に並べた時、一本の映画になるよう喜怒哀楽を表現したい、とオープニングで語った。第一部に出た二人の歌が「少女」「大人に近い子供」だとすればこちらの歌は「無邪気さを持った大人」という印象を受ける。まとまりのあり落ち着いた言葉遣い、不安の少ない前向きな日常詞をたおやかなハイトーンで歌う。MCの中でも、音楽を料理として考えて紹介したり、季節感のある話をしたり、それがどのようにして歌に刻まれたのかなどを、まるで昼下がりのお喋りをするように自然に語った。「like a bird」ではハーモニカを披露。声がまるでひとつの楽器のように響き、素朴なギターの音色もとても「お洒落」な雰囲気を作っていた。これでまだシンプルな編成というのなら、人数が増えた時、いったいどんな世界に連れて行ってくれるのだろうか。そんな期待を抱くほど、彼女達の曲はサウンドに世界観があった。「東京の花」「月夜のカイト」といった曲では大切な言葉が日常詞に混ざっており、不自然なく、そのメッセージ性をキャッチ出来た。たった二人とは思えないダイナミックなサウンドもあり、また、アコースティックで温かく、和むサウンドもあり、自分達の伝えたい事、音楽の世界観をきちんと持ち、安定した状態でステージに立っているのだと思った。こんなことがあったよ、こんなことを感じたよ、と語りかけるように、まるで日記の切れ端を見せているような曲を歌うnowhere。その世界に登場する「私」や「あなた」と同じ体験をしたような、暖かな空気に包まれて、ステージが終わった。

マジマロ♪

Set List

1.探すとて
2.マジマロ
3.未来人間
4.国道337号
5.雫~カーネーションにかえて~
encore.今日の終わりに

このライブにおいて常に司会進行を務めていたマジマロ♪のステージが、いよいよ始まった。温かく素朴な声で語りかけるように歌う。平成のスナフキン、と呼ばれる彼だが、実際のスナフキンよりもずっと明白に想いを伝える存在だ。ギターのマーベラス田中とも、息がぴったり合っており、経験が感じられる。今回のライブで唯一の男性ヴォーカルだが、一曲目「探すとて」で早々に自分の世界を広げると、二曲目に自分と同名の「マジマロ」という曲を披露。自分の原点に帰り、メッセージ性の強い曲を歌っていた。続いての「未来人間」も、同じくメッセージ性のある曲だ。例え良い言葉を知っていても、それが伝わらなければ意味が無いし、ハナにかけて言えば説得力を失う。彼はまさに良い言葉を知っていて、それでいて素直に、ストレートにそれを伝える事が出来る。それ故、彼はどんな歌を歌っても、決して偽善や嘘には感じられない。貴重な歌い手なのだと思った。北海道出身の彼は、常に故郷を思って音楽と向き合うのだろう。「国道337号」では本当に懐かしむような優しい目で故郷の風景を歌い上げ、また、「雫~カーネーションにかえて~」では自分を母親から生まれたひとつの雫として捉えて歌い、伝えきれないほどの母への感謝が、曲、声、サウンドに満ちていた。最後には客席からのアンコールに応え、「今日の終わりに」を披露。「皆さんにとって良い明日が来ますように」と締めてステージを終えた。マジマロ♪のステージではテンポやサウンド、歌い方、どれをとっても「伝えたい事、訴えたい事に溢れている」と感じられた。気迫のあるメッセージソングから、みんなが楽しい気持ちを家へ持って帰れる歌まで二本のギターと声ひとつで歌いきった彼は、まさに「平成のスナフキン」に相応しい温かな歌い人と言えるだろう。
<written by 雨音琴美>



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音倉デ聴き歌ヲ9
響け、真夏の宵に!

満員御礼!
ご来場ありがとうございました。
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雨音琴美のライブレポート
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